世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1324

幼児教育の無償化について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2019.04.01

 2019年10月の消費税増税に合わせて,幼児教育の無償化が実施される。3歳児から5歳児までについては,親の所得に制限はなく全世帯で実施され,0歳児から2歳までは住民税非課税世帯を対象として実施される予定である。この無償化について,さまざまな議論が展開されている。待機児童を増加させるといったような否定的な意見,子育て世帯の負担を軽減させて,少子化対策にもなるというような肯定的な意見の両方が,新聞,テレビなどのマスコミ上で飛び交っている。

 おそらく,幼児教育の重要性を否定する人はいないであろう。教育経済学によると,初等教育に就学する前のいわゆる就学前教育が,その後の生活に大きな影響を及ぼすことが分かっている。就学前教育を受けた人は受けなかった人よりも,所得が高く,学歴も高いという実証結果も得られている。この結果となる理由として,よく挙げられるのが非認知能力の向上である。ここで,非認知能力とは,感情をコントロールする能力や人間関係をうまく築く能力のことを指す。この能力を就学前教育で身につけることが,その後の社会的・経済的生活にプラスの影響をもたらすのである。

 このように,幼児教育の無償化は,長期的見ると,人的資本の観点から,就学前教育への投資を意味する。そして,その後の生活の基本となる知識・知見の蓄積となり,将来の所得の増加が予想されて,生産性の向上や潜在成長率の向上に寄与する。その意味では,幼児教育の無償化は望ましい政策である。

 しかし,短期的にみると,この無償化は待機児童をさらに増加させる懸念がある。待機児童がいるということは,右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線からなる需要・供給分析では,保育の需要が供給を上回る超過需要の状態にある。この場合,無償化は保育の需要曲線を上方へシフトさせて,保育の超過需要をさらに増やして,待機児童を悪化させてしまう。

 このように,幼児教育の無償化は,短期的には待機児童の悪化という懸念が予想されるが,政府は適切な対策でそれを乗り越えて,人的資本の蓄積という長期的な利益が得られるようにしてほしい。

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