世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
海洋プラスチックは世界の緊急課題
(富士インターナショナルアカデミー 学院長)
2019.02.25
最近,海洋プラスチックの脅威がニュースをにぎわすようになったが,その深刻さを数字で見ると,慄然とせざるを得ない。すでに世界の海洋に流れ込んだプラスチックごみは合計1億5,000万トン,年間流入量は少なくとも800万トンといわれている。これはボーイング777-300ER(自重168トン)4万8千機の重さに相当するプラスチックゴミが毎年海洋に流入しているのである。
15年くらい前,筆者が福岡の大学教員時代に,環境意識の高い学生(他大学の学生も参加)に声をかけ,福岡郊外の日本海に面した海岸約1キロ弱にわたって,漂流物を集めたことがある。漂流物は,プラスチックの網やブイ,ペットボトル,プラスチック製品,各種のビン,化学肥料の袋など,雑多なごみが大量に集まった。
大半は,文字によって,朝鮮半島と中国大陸からのものであることが明らかであり,これは将来的に大きな問題になると直感したが,当時は,まだ,日本社会も世界も漂流ゴミを大きく扱うまでには至っていなかった。
以来,ここまで深刻な海洋プラスチックごみを流出した源流を調べてみると,SCIENCE sciencemag.org,2015年2月13日の発表数字(2010年の推定数値で最大の数値)はアジアが主たる発生源であることを明らかにしている。
世界のランキング10位を記すと,1位中国(353万トン/年,以下数字のみ),2位インドネシア(129),3位フィリピン(75),4位ベトナム(73),5位スリランカ(64),6位タイ(41),7位エジプト(39),8位マレーシア(37),9位ナイジェリア(34),10位バングラデシュ(31)の順となっている。ちなみに,アメリカは20位(11)で,日本は30位(6)である。
海洋ごみの影響で約700種もの海洋生物が傷ついたり,死んだりしていると言われているが,その原因の92%がプラスチックと推定されている。ダボス会議(2016年)では,2050年の海洋プラスチックの量は海の魚の総量を上回るという恐るべき推測が出された。堆積した海洋プラスチックは最終的に粒子として海底に沈殿するが,5mm以下のプラスチック粒子はマイクロプラスチックと呼ばれ,小さい海洋生物からより大きい生物に食べられていく食物連鎖によって,海洋生物全体に行き渡り,魚類を食する人間の体内にも入ってくる。
グテーレス国連事務総長も,2018年6月のG7サミット(於:カナダ)で,海は「地球規模の緊急事態(global emergency)」にあると明言し,人類が緊急かつ真剣に取り組まなければならないことを強調した。
海洋プラスチック問題の解決は,まず,プラスチック類の海洋への流出を食い止めることであり,現在,海底に蓄積しているプラスチックと浮遊しているプラスチックごみの回収を並行的に実施することである。
前者は,各国のごみ処理体制の整備(海洋への廃棄物不法投棄阻止などの徹底化等),3R(リデュース・リユース・リサイクル)の促進が緊急課題である。不法投棄は自国の海岸や沿岸漁業への深刻な直接的影響を国家としては自覚していても,まだまだ法規制・監視体制が弱体であるとか,関連業者や国民のモラルが低いことにより対応が遅くなっている。
私企業では,早速,「脱プラスチック」を開始しているケースがみられる。乗客が年間約40億人を突破する航空業界では,アメリカのデルタエアライン,アメリカンエアライン,ニュージーランドのニュージーランド航空,ポルトガルのハイフライ航空などは,ストロー,マドラーなどの食器類を紙や竹製などに変える動きが始まっており,世界の航空業界はプラスチックフリーの方向に堰を切ることになると思われる。
自動車では,スウェーデンのボルボ社は2025年までにすべての車種で,プラスチック製部品の25%以上を再生素材に転換すると発表し,世界中の同社のオフィス,社員食堂やイベントで使い捨てプラスチックを2019年には全面廃止することを決めている。
スターバックスは全世界2万6千店舗において,毎年使用されるプラスチックストロー10億本を2020年までに全廃することを決めた。米フロリダ州のマクドナルドでは,プラスチックストローがないと怒った客が女性店員に暴力を加える事件があるなど,プラスチックフリーも平坦な道ではないが,世界の潮流はようやく早まりを見せている。
わが国では,三菱ケミカルホールディングス,住友化学,三井化学が,海洋プラスチックごみ問題の解決を目指し,グローバル企業約30社による国際組織Alliance to End Plastic Waste(AEPW,プラスチック廃棄物を除去するためのアライアンス:2019年1月にロンドンに設立)に参画した。国際企業は,どの分野であれ,プラスチック問題解決のために貢献しているかどうかが問われる時代になった。さらに海洋プラスチックの回収は,国際的な協力体制が構築されることが望まれる。
上記のG7首脳会議は「海洋プラスチック憲章」を策定し,2030年と期限を定めて問題解決に取り組むことを参加国に求めたが,日本と米国は承認しなかった。海洋国家であり,最大プラスチック排出地域であるアジアで唯一のG7メンバーの日本は,海洋プラスチック問題に地域でのリーダーシップを取ることが世界から求められている。それに立ち向かえる技術力もある日本の本問題での立ち遅れは,将来禍根を残すことになると危惧している。
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