世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1258

インド共和制記念日主賓に外交の重視国首脳を招聘

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2019.01.21

 インドの国民祝祭日で新年を迎えて早々の1月26日は,共和制記念日(リパブリック・デイ)である。13億人以上を擁する世界最大の民主主義国が1950年に世界最長の憲法を公布した記念日で,8月15日の独立記念日とともに全インド共通の最重要の祝日である。連邦中央政府のある首都ニュー・デリーでは,この日大統領府を起点に連邦議会や最高裁,行政府が立ち並びインド門に至る幅140m,全長3.5kmに及ぶ公園道路ラージ・パット(王道)でインド国軍や各州民族舞踊団等の大パレードが行われる。軍の隊列には兵器のみならずラクダや象部隊も行進し民族代表は民族衣装で参加,大国でありがちな国威発揚のいかめしさよりもインドを象徴する多様性をうかがい知る華々しい祭典となる。そして,亜熱帯でも乾季で小春日和が多いこの時期に挙行される記念パレードには,インド政府要人や外交団とともに一般国民の閲覧席が設けられ,前者の主賓(チーフ・ゲスト)席にはその時々のインド外交の主要国首脳が招聘される習わしだ。

 近年の例でいえば,2014年における主賓は日本の安倍首相,15年が米国のオバマ大統領と日米首脳が相次いで主賓に招聘され,咋18年にはASEAN10カ国首脳が招かれた。安倍首相が主賓に招聘されたのは前政権期末であったがインドが日本を戦略的に重要なパートナー国として重視する姿勢は現モディ政権になってより鮮明になっており,オバマ前米国大統領が招聘されたのは現政権の対外政策で米国重視姿勢を表している。ASEAN10カ国首脳はインドとASEAN対話25周年を記念し前日の「デリー宣言」をうたった首脳会議に参加したもので,翌日はパレードに列席した。インドは,東アジア地域を重視するこれまでの「ルック・イースト政策」を現政権になってから具体的な成果を目論んだ「アクト・イースト政策」に強化し,ASEANはその政策の中心を成している。

 今年の共和制記念日は70周年を迎え,インド独立の父として国民に慕われているマハトマ・ガンディの生誕150年に当たる節目を迎える。4月の総選挙で第2期を目指すモディ政権は世界最古の民主主義国として米国を重視し,今年の共和制記念日の主賓にトランプ大統領の招聘を打診してきた。トランプ大統領も中国との経済的政治的な対立の中でインドを重視し,就任後同盟国以外では初の電話会談に応じる姿勢を見せてきたが,中間選挙後の内政状況や教書の発表時期と重なるタイミングもあって招聘には至らなかった。そこで,2019年共和制記念日の主賓には,18年7月に首都ヨハネスブルグで第10回BRICS首脳会議を主催した南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領が招聘されることになった。南アフリカはマハトマ・ガンディが英領インド時代に身を寄せていた国であり,ラマポーザ大統領はアパルトヘイト政策を撤廃し今年生誕100年を迎える故ネルソン・マンデラ大統領の後継者である。インドにとって南アフリカは,「アクト・イースト」政策と並び関係強化を図る「リンク・ウェスト」政策で要の国であり,共和制記念日の主賓国に選ばれた。

 世界経済や世界政治の中で中心的な役割を果して来たアジア太平洋地域は,今後インド洋圏にも広がる可能性が高い。東アジアの生産販売網はインド洋周辺やアフリカに広がりつつあり,米国と中国2大国の海上覇権をめぐる争いは太平洋からインド洋に及んでいる。こうした中で,まだ実績は乏しいもののインド洋周辺国21カ国の地域協力の集まりとしてIORA(Indian Ocean Rim Association)があり,その前身のIORARC(Indian Ocean Rim Association for Regional Cooperation)は故マンデラ大統領が域内大国のインド訪問時に持ち掛けたといわれる。また,最近では,中国の海のシルク・ロード構想は海上輸送の重要なシー・レインであるインド洋やインド周辺国に及び,この地域の安全保障上の懸念が高まっている。これに対抗する上で日米インドとオ―ストラリア間には「自由で開かれたインド太平洋」構想が検討されつつあり,このタイミングでインドと南アフリカ首脳が1月26日のインド共和制記念日の会談でどのようなメッセージを発信するか注目されよう。

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