世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1253

モディ政権の経済政策:そのレビューと今後の課題

小島 眞

(拓殖大学 名誉教授)

2019.01.14

 2014年5月の総選挙で,インド人民党(BJP)が圧勝し,ナレンドラ・モディ政権が誕生した。これまでモディ政権はガバナンス改革と堅実なマクロ経済運営を図りつつ,力強い経済成長の実現に向けて“Make in India”イニシアティブを打ち出すとともに,インド社会の変革と底上げという面でも,幅広い分野で意欲的な取り組みを行ってきた。モディ政権成立後,インドは優に7%を超える経済成長を示しており,その動向に世界の熱い眼差しが向けられている。ところで今年5月までに実施予定の総選挙を控えて,昨年12月に5州で州議会選挙が実施されたが,BJPはこれまで政権を担当してきた主要3州(ラージャースターン,マディヤ・プラデーシュ,チャティスガル)で思わぬ敗北を喫する結果となり,モディ政権の経済政策は新たな試練に晒されることになった。これまでの4年有余,モディ政権がいかなる経済政策を展開してきたのか,その全容をレビューするとともに,目下,いかなる課題に直面しているのか,検討してみたい。

 政権成立後,モディ政権はガバナンス改革を推進しつつ,幅広い分野で力強い経済成長の実現に向けて強いリーダーシップを発揮してきた。プロジェクト認可と意思決定のスピードアップを通じて投資環境の改善が図られたことは,対印直接投資の着実な拡大をもたらすとともに,世界銀行の「ビジネスしやすさ」国別ランキングにおいてもインドの順位が政権成立当時の142位から昨年には77位へと大幅にアップしたことに反映されている。

 貧困対策では国民会派主導の前UPA(統一進歩同盟)政権時代に導入された全国農村雇用保障法(農村の貧困世帯を対象に100日雇用機会を保証),さらには全国食糧保障法(全人口の3分の2の人々を対象に毎月1人当たり5㎏の穀物を補助価格で支給)に基づいたスキームが引き継がれ,それに加えて農村でのトイレ設置,LPガスへの無料接続の提供といった新機軸が打ち出された。またインド経済のデジタル化を推進すべく,生体認証を伴う固有識別番号(アーダール)制度の全国的浸透が図られた結果,アーダールの発給済み人数は,政権発足時の6億人から昨年7月には12億1750万人へと急ピッチで拡大した。本人確認を証明できる公的手立てを提供するアーダール制度の拡充に伴い,銀行口座開設といった金融的包摂,さらには受益者本人の口座に補助金を振り込む直接便益移転の実現が可能となった。

 モディ政権のリーダーシップの真骨頂は,「ねじれ国会」の壁にも阻まれながらも,憲法改正を経て,2017年7月に物品・サービス税(GST)の導入に漕ぎつけたことに示されており,このことは今後の成長基盤の強化を意味する重要な改革であったいえる。モディ政権のガバナンス改革や政策運営にインド国民の間で幅広い支持と期待が寄せられていたことは,14年5月当時,BJP与党(連立も含む)の州は6州を数えるのみであったのが,その後20州まで拡大するようになったこと,さらには16年11月の高額紙幣廃止措置が日常生活に多大な不便を強いたにもかかわらず,17年4月のウッタル・プラデーシュでの州議会選挙でBJPが大勝を博したという結果からも窺われる。

 他方,“Make in India” が叫ばれながらも,生産,雇用の両面で製造業の力強い拡大が期待通りに進展しているわけではないため,依然として大多数の人々が組織部門・正規雇用に与れない非公式部門に据え置かれたままになっていることは否定できない事実である。とりわけ農村部では経済成長の恩恵が感じられないということで,農民の不満が顕在化するようになった。このため17年12月のグジャラートの州議会選挙以降,BJPは下院や州議会の補欠選挙で野党に大敗するとともに,昨年12月に実施された州議会選挙(5州)では,これまで政権を維持してきたラージャースターン,マディヤ・プラデーシュ,チャティスガルの主要3州すべてにおいて会議派に敗北を喫する結果となった。

 もっとも,過去の州議会選挙では,2003年にBJPが上記3州で勝利を収めながら,翌年の総選挙では敗北しており,また08年の場合では会議派主導のUPAがマディヤ・プデーシュ,チャティスガルで敗北しながらも,翌年の総選挙で勝利を収めたという経緯がある。そのため今回,上記3州でBJPが敗北したことは,今年5月までに実施予定の総選挙の行方を大きく左右するものではないにしても,野党国民会議派が農業徳政令を高らかに公約し,選挙で勝利を収めたことから,今後,総選挙に向けてポピュリスト的風潮が強まることが予想される。こうした中,ポピュリスト的流れに抗しつつ,労働法の改革,農業労働生産性の向上,さらには「利用者負担の原則」に基づいた配電部門の改革といった経済改革の本丸にどこまで迫っていけるのかどうか,モディ政権の経済政策は大きな正念場を迎えている。

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