世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
今回の中間選挙は,トランプ大統領の勝利かもしれない
(Global Issues instituteCEO CEO)
2018.11.12
11月6日に行われた米国中間選挙で,トランプ共和党は,上院での過半数を維持したものの,下院では30議席以上を失って過半数を民主党に奪回された。これを以ってトランプ氏の“敗北”と考える人は多い。
しかし,そうだろうか?
そもそも中間選挙では現大統領の政党は議席を減らすのが普通なのだ。権力のチェック・バランスを国民が求めるからだろう。南北戦争以来,現職大統領の政党が議席を増やしたのは3回しかない。1934年と2002年は何らかの意味で“戦時”だったからだろう。1998年は経済好調その他の特殊事情によると思う。
何れにしても例えば2010年にはオバマは上院で6,下院で63もの議席を奪われている。それに比べれば下院で約35議席,上院では議席を増やした今回の中間選挙は,トランプ勝利と言っても良いのではないか?
しかも選挙戦終盤での凄まじい選挙応援のお陰で特に上院の共和党は,負けそうだった選挙区で勝っている。その恩を彼らは忘れないだろう。
つまり下院で仮に弾劾案が通っても,上院で否決される。今まで積み重ねて来た政策が否決されることもない。次の最高裁判事も決められる。
トランプ氏がヒラリーに勝った州選出の民主党上院議員で最高裁判事承認に反対した候補者は全て落選している。一人だけ民主党だが最高裁判事承認賛成に回った候補だけが当選していて,これは考えようによってはトランプ大統領の勝利である。
逆に民主党の「次世代エース」と呼ばれた極左系の新人候補は,全て落選している。中には共和党候補の倍近い政治資金を集めた候補もいたが落選している。
民主党には共和党に近い保守系議員も,サンダースに近い極左の議員もいる。今回の選挙で確かに北米原住民系の候補者やイスラム系候補者,LGBTの候補者そして多くの女性議員が当選した。この“多様性”が民主党の力の源泉でもあると同時に,弱点でもある。
このように“多様”な集団が,まとまって活動することが可能だろうか? 今回の中間選挙でも,事前の民主党の予備選で主流派と極左の候補が対立したことが,民主党が“大勝利”できなかった理由の一つで,これは2020年の大統領選でも,同じ現象が起こり,トランプ大統領を有利にするのではないか?
2020年の選挙で重要になる“激戦州”であるフロリダとオハイオで,共和党は州知事選挙に勝っている。これも2020年のトランプ再選には重要な布石である。
また中間選挙直前になって政治資金問題等で起訴された共和党の下院議員2名も当選している。トランプ共和党の基盤は実は強固なのである。
それでも下院で過半数を取られた理由の一つは,トランプ大統領の政策等を支持する人は44%いるが,その半分くらいの人がトランプ氏個人を嫌っている。これはブッシュ2世の5倍,オバマの10倍である。もし,このことがなければ,経済好調の今の米国では,もう少し良い結果が共和党に出ても良かったのではないか?
もちろん言われているように郊外に住む女性有権者が反トランプに回った事も非常に大きい。
そのようになっている理由は,トランプ大統領の中道的政策への妥協が少なかった事にあるのではないか? 例えば国境警備強化や米墨国境での「壁」建設と引き換えに,子供の頃に親に連れられて不法入国し,その後に教育も受けて米国社会で労働もしているドリーマーと呼ばれる人々の,米国居住合法化を認めていれば,例えば国境での「親子引き離し」のような女性が反発するような結果にならなかったかも知れない。郊外に住む共和党の支持者は,国境警備の強化を求めているが,人道的な移民政策も望んでいて,トランプ氏は2020年に向けて移民戦略を練り直す必要があるのではないか?
下院の過半数を取得した民主党は,トランプ政権の通商交渉を遅らせることで,少なくとも結果として保護貿易的な政策を実現しようとするのではないかと考えられている。税制に関しては金融取引や海外事業に対する課税強化。また社会問題化している薬価引下げに関しても国民の関心を集めるために積極的に議会で追及する可能性も低くない。
ところが以上の政策は実は,トランプ氏が予備選時代から実現を望んでいたが,共和党から大統領選挙に出てしまったために,積極的に実行できなくなってしまった政策なのだ。ドリーマーの米国居住の合法化を国境警備強化実現の取引材料にすることも,トランプ氏は考えていたのだが,共和党保守派系の顧問に反対されて実現できなかったのである。
このように考えるとトランプ氏は民主党と部分的な取引をして今後の2年間で以上のような諸政策に力を入れる可能性があると思う。2020年の再選を目指すために。今回の選挙で共和党内での指導力は却って高まったので党内の反対も少ないかもしれない。
そして民主党は前述のように“多様”過ぎる政党である。個別の政策ごとに,部分,部分と協力することも考えられると思う。
それが上手く行かなければ「上手く行かないのは下院民主党の責任だ」と主張することが出来る。こうして“敵”を作ることで自らへの支持を強化するのはトランプ氏の得意技である。
今まで述べて来たことからして,2020年再選への道筋は,むしろ広がったのかも知れない。「今回の中間選挙は,トランプ大統領の勝利かもしれない」というのは,そのような意味である。
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吉川圭一
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