世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプ流思考は継続するか
(関西学院大学 フェロー)
2018.09.03
トランプ大統領が提起する問題を,愈々始まる日米経済協議といった,閣僚レベルのルートだけで決着させるのは難しいかもしれない。
逆に,それこそトランプが自分の選挙期間中に唱えていた「円安是正という為替問題」を,その場で浮上させてしまう可能性すら案じられる。皮相的に見ると,日米経済協議が,問題を正式に提起する場としてのみ機能し,問題を解決する場にはならない可能性もあるわけだ。トランプ大統領にとっては,「最後に自分が出て,決着をつける(内容で進展がなくとも,一応の決着を付けた形を取る)」ことこそが,流儀なのだ。ここら辺の処を睨み,潜在的な日米軋轢の緩和に,安倍・トランプの特別な関係をどう生かすか,安倍総理としても真骨頂を問われる局面だろう。
トランプ大統領のシナリオには思考を今後も継続する前提がある。それは経済が良好でなければならない,というもの。この現実を十二分に理解しているが故に,FRBが金融引き締めの度合いを強めた時,「この段階での金利引き上げは,全てを台無しにする」と,トランプ大統領が怒ったのだ。恐らく,その怒りは本心からのものだっただろう。
もっとも,あの金融正常化に向けたFRBの動きがあったにもかかわらず,幸い,今のところ,米国経済は好調を維持している。
第2四半期,米国の経済成長率は年率換算で4.1%も伸び,7月の失業率も3.9%に下がった。これは,いわば完全雇用状態。
それ故,FRBは今年,9月と12月の二度,「更なる利上げを行う」とウォールストリート筋は見ている。
話がそれるが,此処で気になるのは,米国企業と日本企業との間に見られるAnimal Spiritの差。Animal Spiritという言葉は経済学者ケインズの造語とされるが,各種報道からうかがえる限り,経済の現況を見る米国の企業経営者の鼻息はとても荒らそう。
いつも同じSourceで恐縮だが,ここでもNY Timesの記事を紹介させて頂こう(7月24日;U.S. Business Are Bullish Amid Worldwide Instability)。
「National Federation of Independent Businessのoptimism indexによると,SP500社の,実に10社中9社が,実際の収益率が予想値を上回ったとのこと…もちろん,大豆や養豚,自動車や一部製造業者は,素材コストの上昇,或いは,製品売上高の縮小,更には輸出減少の可能性を案じているが…,当面,そうした通商戦争勃発や素材コストの上昇リスクよりも,眼の前の好況感の方が勝っている…ある中小企業経営者はいう。『トランプ減税や規制の大幅緩和,想定以上の売り上げ増,そして手許のキャッシュ…要するに,我々のビジネスには成長のためのカネがある…(だから)金を使うことに躊躇はない(we have more money to grow business…I feel OK spending money )』」。
こうしたムード,キャッシュ・リッチの日本の経営者の先行き見通しと比べて,何と楽観的なことか…。何事につけて楽観的な米国と,何かにつけて悲観的な日本の,この心理面での違いを解消せずに,日本経済の浮揚も考えられない,との感を強くする次第。
トランプ大統領の姿勢に若干の変化が見える点にも注目すべきであろう。
America Firstを標榜するトランプ大統領の各種行動の結果,現状,明らかになりつつあるのは,これまで,国際政治・経済場裏でのRule Makerだった米国が,此処に至り,新規ルールの創設と維持のためのコスト負担を厭い,むしろ,既存ルールを上手く使って,自身の利益を確保しようとの,いわばRule Takerに徹する姿勢に転じた姿であろう。
こうした国際社会での指導権を放棄した行動ぶりが,最終的に,米国の指導力,曳いては影響力,を大幅に減じる結果となることは論じるまでもあるまい(The shift of the United States from global rule maker to rule breaker is likely to end in the country a mere rule taker; CSIS Matthew P. Goodman;2018.Aug 1)。
トランプ大統領の,暴れる君ぶり。米国中間選挙を過ぎればかなり収まる,との説が有力なようだが,彼は,ある意味で本心から,統治よりも選挙のスタイルで,中間選挙後も振る舞うことを止めないのではないか…。
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