世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1143
世界経済評論IMPACT No.1143

米国民主党は社会主義政党になるか?

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2018.09.03

 6月26日にニューヨーク第14区で行われた民主党予備選で,下院民主党の幹部会議長だったクローリー氏を,サンダースの推薦を受けた28歳の若い女性オカシオーコルテスが大差で破った。彼女はサンダースの影響を受けて自らを社会主義者と称している。

 いま米国民主党支持者の約6割が社会主義的思想を持ってしまっていると言われている(出典:FOX8月15日配信“‘Anti-Trump Delirium’ Pushes Democrats Toward Socialism”)

 もともと米国民主党には,このような左派と主流派の対立と,そして世代間の対立があった。クローリーも70代。ペロシ下院院内総務は78歳。彼女の副官的人物も近い年齢である。2020年の有力な大統領候補バイデンも75歳である(サンダースも76歳だが)。それに対してペロシと地位を争ったライアンは44歳(The Hill7月2日配信“Dem generation gap widens”)。

 こうして米国民主党改革の「ジャンヌ・ダルク」となった彼女は,サンダースと共に重要選挙区での自らに近い主張の候補者の応援演説をして回ったりしている。(Washington Examiner7月17日配信“Sanders, Ocasio-Cortez to campaign together in Kansas”)

 だが,このような行為を“民主党を分裂させるもの”として批判する人々も党内には少なくない(The Hill7月7日配信“Ocasio-Cortez draws ire from Democrats”)。またコルテスはディベートに弱いらしく,クローリーとの予備選でもディベートを避けただけではなく,保守派の論客ベン・シャピロからの公開ディベートの要請も無視した(FOX8月11日配信“Ocasio-Cortez Accused Primary Opponent of ‘Avoiding a Debate’”)。

 そのせいか彼女が推薦した五人の候補者は全て落選した(Washington Examiner8月11日配信“Mixed results on tariffs, House elections”)。8月14日になって,やっとミネソタ州の予備選で女性候補の勝利に貢献したが,この候補は米国初のイスラム系女性候補だったので,候補者のアピール力が大きかったのかもしれない(Washington Examiner8月14日配信“Ocasio-Cortez-endorsed candidate Ilhan Omar wins Democratic House primary”)。

 このような現象を最も冷静に分析したのは,ブルッキングス研究所が7月12日に配信した“Progressives versus the establishment: What’s the score, and does it matter?”という報告だろう。この報告によれば,この時点で民主党の予備選に出ている非現職の左派系候補者は全体の41%。2年前が26%なので,かなり増えてはいる。しかし予備選の勝率では主流派30%に対し左派23%。しかも左派系候補者の25%以上は民主党の地盤で本選に望むものの,その他の人々は接戦地区か,あるいは共和党の地盤で本選に臨まねばならない。

 こう考えると11月以降に民主党が非常に左傾化する可能性は高くない。だが医療保険制度充実に賛成な左派系候補者は全民主党候補者の約45%なのに対し,主流派系では30%程度。そういう意味では影響は小さくないのではないかと,この報告は結んでいる。

 そのためかトランプ氏が“左派よりはマシ”という意味でペロシ氏続投を支持しているという(Roll Call8月10日配信“Trump to Democrats: Give Pelosi Another Chance”)。ペロシ氏も続投意欲満々らしい(Washington Examiner8月12日配信“Nancy Pelosi tells Democratic candidates to ‘just win’ in November, then she’ll ask them to support her for speaker”)。

 だがアメリカ国民の約75%が,ペロシ氏の続投に否定的である(The Hill8月10日“Three-quarters of Americans say Nancy Pelosi should be replaced, including half of Democrats”)。また2020年の大統領候補としての支持率はバイデン72%,サンダース66%あのヒラリーでさえ53%あるのに,ペロシは42%(Washington Examiner7月3日配信“Democratic voters: Hillary in, Pelosi out”)。

 やはり長期的には左派が優勢になって行くのだろうか? それに対しては最初に引用したFOX8月15日配信前傾記事の中で保守派の女性論客イングラハム氏が言うように“コルテス現象はトランプ現象への反発の一種でしかない”と言う意見が適切なように思われる。実は茶会党運動も,オバマへの反発から出たもので,オバマが去ると同時に沈静化しつつある。コルテス現象も同様になる可能性は低くない。何れにしてもイングラハムの言うように社会主義で活力ある社会を築くことは出来ないことは歴史が証明している。

 例えばヘリテージ財団が8月10日に配信した“Why Democratic Socialists Can’t Legitimately Claim Sweden, Denmark as Success Stories”という報告によれば,コルテスやサンダースが理想の国と思うスウェーデンは,確かに高福祉・高負担の時代があったが,そのため経済低成長率と高失業率に悩まされ,今では福祉部門民営化と税率低下で,世界で23番目に経済的に自由な国である。

 やはり社会主義的な政策は,現実には成り立たないのである。アメリカ国民には冷静になってもらいたいものである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1143.html)

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