世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1133

トランプ大統領の反理性主義的(地政学的)外交

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2018.08.20

 トランプは7月中旬に欧州を歴訪しNATO会談,米英会談,米露会談と精力外交をこなし,長年の同盟国NATO諸国には軍事費増額を迫って反感を買い,英国でも米英経済協定に合意を取り付ける途中の駆け引きでメイ首相のソフトBrexitを批判し反感を買った。逆に冷戦以来の宿敵ロシアのプーチン大統領とは協力関係を模索した。

 これは戦略性を欠いた外交という批判も多い。だが,そこで言う“戦略性”とは,理性主義的外交政策を言っている。それが行き詰まり米外交が国益実現に失敗した為トランプ政権が出来た—つまりトランプ氏の理性以前の直感を重んじる才能—地政学的外交政策が必要とされた。

 地政学は人類の歴史と外交を地理的条件から考えるものだ。ユーラシア大陸中枢部—今のロシア領域周辺は,うまく開発すれば資源豊富で,海からの攻撃が難しい。逆に日米英は島国か巨大な島国として,海洋を通じ発展するしかない。この二大勢力がユーラシア大陸辺縁部の利権を巡り抗争を続ける。歴史は,その繰り返しで,今後も世界の外交は,この抗争を基本に行われる。以上が地政学だ。

 これは理性主義からすると単純すぎる。だが理性以前の人間の直感では本質を突いている。トランプは,この方向で米国外交を再建しようとしている。

 従来の米国は,ユーラシア大陸辺縁部に深入りし過ぎた。欧州の防衛に多額の軍事費を使い,中国大陸のビジネスに深入りした。それは米国を疲弊させ,中国を恐るべき経済,軍事上の敵に育てた。

 それはロシアが閉鎖的計画経済の国であり,それをユーラシア大陸辺縁部に軍事力で布教しようとしていた時代には必要だった。だがソ連崩壊で事情は変わった。

 ロシアは自由経済の国として天然資源を積極的に輸出し,また投票の民主制も根付きつつある。だが中国は社会主義のままだ。欧州大陸は防衛面で米国頼りだが,米国がシェール石油の輸出国になろうとしていても,ロシアの天然ガスを購入し続けている。

 これは米国外交の失敗だ。そこで日米英海洋勢力の団結を深め,ロシアの部分協力を得て欧州も中国も挟み撃ちにする。それがトランプ戦略だ。

 TPPに代わる日米FTAや米英経済協定を急いでいるのは,海洋勢力団結を促進するためだ。ロシアは冷戦終結の痛手から完全に回復せず兵器と天然資源以外の産業は弱体のままだ。米国が産油国になる現状では価格調整面も含めて,米国の協力が不自然な国ではない。

 そこでトランプ=プーチン会談では,ロシアがイランを,アメリカがイラクを操って戦争を起こさせ,米露に有利な資源価格調整が行われたのかも知れない。この会談から数週間後,北朝鮮が非核化を行ってないが,中国の支援が再開している件が問題になった。サイバーや核等のハイテク関係で,北朝鮮に大きな影響のある国は,むしろロシアだ。中国や欧州の「門戸開放」問題もある。米露協調は日英にも,メリットが大きい。

 だが米国では米露会談前後に特別検察官により,ロシア政府関係者が2016年大統領選挙介入疑惑で起訴され,そのためトランプ氏によるプーチン大統領のワシントン招待は,中間選挙以降に延期された。これはワシントンにおける理性主義者の反理性主義的外交への妨害だ。

 理性的計画で貧富の差のない社会を築く考え方には理性的計画に合わせて,天然資源が無尽蔵に出るという前提が必要だが,これは1970年代の石油危機で否定された。そのためソ連型社会主義もケインズ型資本主義も破綻した。

 そこで貧富の差が拡大しても市場主義に全てを任せないと資源の有効活用が出来ない発想が復活し,レーガン革命以降の新・資本主義が世界の主流になり,“見えざる神の手”への「信仰」に回帰した。

 それは海洋(自由)貿易で発展するしかない日米英の,独壇場になる筈だった。だが欧州,中国,中東諸国は,ソ連包囲網が必要な時代以来の,米国の好意に甘えて来た。それを日米英とロシアの協力を得て,こじ開けるのがトランプ外交だ。

 それに理性主義者が反対するのはユーラシア大陸辺縁部の資源へのアクセスを有利に行えば理性的計画で貧富の差のない社会を実現できるという「迷信」に取り憑かれているからだ。

 それにはロシアを仮想敵にしてユーラシア大陸辺縁部―欧州,中国,中東等の資源に米国がアクセスし易くする必要がある。それがワシントンの理性主義者が,トランプの地政学的外交に反対し,ロシア疑惑を捏造して妨害する理由だ。

 確かに市場主義によるグローバル経済は米国を中心に貧富の差の大きい社会を作りつつあるが,それは欧州,中国,中東諸国が,ソ連包囲網時代以来の米国の関係に甘え,規制の多い閉鎖的貿易を行って来たことにも一因がある。

 トランプは,それを抉じ開けようとして市場メカニズムを否定しない関税の形で,グローバル化=国際的貧富の格差拡大にブレーキをかけようとしている。

 ユーラシア大陸辺縁部の資源へのアクセスを高めれば,貧富の差の理想社会を築ける考え方は,1970年代に否決されている。今は日米英海洋勢力がロシアと協力して,ユーラシア大陸辺縁部の勢力から規制を撤廃させ資源価格調整を打破し,より市場主義的世界を,実現すべき時だ。

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