世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1121

保護主義を逆転させる3つのメガFTA:TPP11,RCEP,日本EU・EPA

清水一史

(九州大学大学院 教授)

2018.07.30

 現在の保護主義の拡大の中で,今月7月には3つのメガFTAが進められた。3つのメガFTAとは,TPP11,RCEP,日本EU・EPAである。日本はそれら3つのメガFTAを推進している。3つのメガFTAには,保護主義を逆転させる期待が掛かる。

 第1にTPP11(包括的及び先進的なTPP協定:CPTPP)において,日本は6月にTPP11の国内手続きを終了し,7月6日には協定寄託国であるニュージーランドに国内手続きの完了を通報した。TPPは6カ国の国内手続きの完了後,60日で発効する。メキシコ,日本に加え,7月19日にはシンガポールも国内手続きを終えた。来年の早い時期の発効が待たれる。

 TPP11は,アメリカがTPPから離脱してしまった状況の中で,日本が提案して主導してきた。世界のGDPの約13%,貿易総額の15%,5億人の人口の規模を有するメガFTAとなる。アメリカが抜けてオリジナルのTPPに比べると小さくなったものの,そのインパクトは大きい。そしてTPPの高い水準の貿易自由化と大半の新たなルールを受け継ぎ,今後のメガFTAの雛形になるであろう。オリジナルのTPPは,AECやRCEP,日本EU・EPAを強く後押ししていた。TPP11も,再度それらを後押しするであろう。

 7月17−18日には,日本の箱根で交渉会合が開催され,TPP11発効後の新規加盟国の手続きについても議論された。現在,タイとコロンビアが参加を表明し,インドネシア,フィリピン,韓国,台湾,イギリス等がTPP11参加に関心を示している。TPP11が発効し参加国が拡大することにより,TPP11の意義が増すとともに,TPP11が更に他のメガFTAを後押しするであろう。

 第2に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)では,7月1日に東京で閣僚会合が開催された。ASEAN以外で開催される,初めての閣僚会合であった。日本とシンガポールが共同議長となり,RCEP交渉の年内妥結を目指すことを表明した。

 RCEPは世界の成長センターである東アジアのメガFTAであり,現在,交渉中である。参加国は,ASEAN10と日本,中国,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,インドの16カ国である。世界の人口の約半分,世界のGDPと貿易総額の約3割を占め,実現すれば東アジアと世界の経済に大きなプラスの影響を与える。

 RCEPは,ASEANが2011年に提案して,その交渉をリードしてきた。ASEANは東アジアの経済統合を牽引し,2015年にはASEAN経済共同体(AEC)を創設した。また東アジアの経済統合でも中心であり,2011年11月にはRCEPを提案した。RCEPは2013年5月にRCEPの第1回交渉会合が開催されて進められてきた。オリジナルのTPPがRCEP交渉を加速させていたが,アメリカのTPP離脱によって,その後押しは難しくなった。しかしTPP11が,再度RCEP交渉を後押しする。

 RCEP交渉においては,ASEANが重要である。RCEPを提案したのはASEANであり,ASEANがRCEP交渉を主導している。RCEPでは「ASEAN中心性」が規定され,参加16カ国のうち10カ国はASEANである。RCEP交渉は多様な諸国を含む難しさを抱えるが,日本がASEANと協力して,RCEP交渉を今年中の妥結に導くことを期待したい。

 第3に日本EU経済連携協定(EPA)では,7月17日に遂に日EU・EPA並びに戦略的パートナーシップ 協定(SPA)が署名された。日本EU・EPAは,オリジナルのTPPが後押ししていたが,最近ではTPP11が進められる中で2017年7月に大枠合意がなされ,12月に交渉が妥結していた。次の目標は,日本とEUにおける手続きの完了と発効である。2019年9月までの発効を目指している。

 日EU・EPAは,世界のGDPの約3割と貿易総額の約4割を占め,実現すれば巨大なメガFTAとなる。また日EU・EPAも,高度の貿易自由化と新たな通商ルール化を進めている。貿易自由化率も日本側が94%,EU側が99%であり,TPP並みの高い自由化水準を目指している。日EU・EPAも,TPP11,RCEPとともに,保護主義に対応する大きな力となるであろう。

 現在,アメリカ発の保護主義と貿易摩擦が世界経済を揺さぶっている。2017年1月のトランプ大統領の就任以降,世界の通商状況は大きく変化してしまった。アメリカの関税引き上げと,中国や各国の報復関税によって,更に世界に保護主義が広がっている。自動車にも,追加関税が掛けられる可能性がある。保護主義の拡大は,貿易と投資の拡大の中で急速に発展してきた東アジアにとって,大きな打撃となる。

 日本は,TPP11,RCEP,日本EU・EPAの3つのメガFTAを進めて保護主義に対抗している。現代世界の厳しい通商状況において日本の役割は大きい。更に3つのメガFTAを進めて行かなければならない。

 オリジナルのTPPが他のメガFTAを後押ししたように,TPP11が他のメガFTAに作用して,更に3つのメガFTAが相互に作用して大きな相乗効果を生むであろう。またTPP11に見られるような参加国の増大が,更に相乗効果を生むであろう。

 3つのメガFTAが,現在の世界経済における保護主義を逆転させることを期待したい。そしてアメリカが近い将来,TPPとメガFTAに復帰することを期待したい。

関連記事

清水一史

国際経済

日本

最新のコラム