世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1120

ビッグデータとGAFAの「データ寡占」:政策当局の介入の可能性はまだ不透明

森原康仁

(三重大学 准教授)

2018.07.30

 「ビッグデータ」というキーワードを目にする機会が増えている。事業の現場でも利用が進み,日々の仕事のなかで触れる機会も増えている。

 ビッグデータとは「無数の取引,生産,通信プロセスから生成される大量の(デジタル)データ」(OECD)である。そして,この分析によって「まだ知られておらず,構造化(形式化)もされていない莫大な情報」から意味のある情報を取り出すことができるようになると,製造コストを劇的に削減できるだけでなく,より適切な意思決定を下せるようになると期待されている。たとえば,2016年度の「世界経済フォーラム」は,世界中の工場で業務や生産プロセスがデジタル制御されるようになると,2025年までに全体で100兆ドルの経済価値を生むと推計している。

 ビッグデータはデータ収集の画期的な効率化によってもたらされている。ウェブの普及はオンラインでのデジタルデータの収集を容易にした。2000年代半ば以降は,スマートフォンの登場で大半の人が常時小さなセンサーを持ち歩いているに等しくなった。また,センサー技術の革新によって,産業の現場でのデータ収集も可能になった。IoT(モノのインターネット)はその一例である。

 アクセンチュア社シニアマネジング・ディレクターのエリック・シェイファーの整理によれば,2020年までにセンサーとデバイスの数はそれぞれ2120億個,500億個に増える。また,同年までに4G-LTEネットワークに接続する人の数は23億人になる。その結果,2021年には1か月あたりのモバイルデータ・トラフィックは52エクサバイトにまで増えるという。センサー,デバイス,ネットワークの革新が,ビッグデータの技術的基礎であることがわかる。

 こうしたビッグデータの分析・活用を強力に進めているのがGAFA(ガーファ)と呼ばれるIT産業の巨大企業である。GAFAとは,Google,Apple,Facebook,Amazonの頭文字をとったもので,この言葉が初めて活字メディアに登場したのは2012年12月のフランスの『ル・モンド』紙だった。

 GAFAの中核事業はそれぞれ異なるが,4社に共通しているのは「プラットフォーム企業」という点である。ノーベル経済学賞を受賞したジャン・ティロールらが整理したように,プラットフォーム企業とはネットワーク効果が存在する2つの市場の両方(両面市場 two-sided market)と取引をおこなう企業を意味する。典型的な事例はAdobe社のPDFである。同社は読者市場(普及を促す市場)にディスカウント価格でリーダー・ソフトを提供する一方,収益を得る市場(出版市場)には電子書籍作成ソフトをプレミアム価格で提供し,両者を仲介してPDF規格を普及させつつ,PDFを収益事業としても成功させた(立本博文の整理にもとづく)。

 GAFAも同様である。たとえば,AppleとGoogleはスマートフォンで消費者とアプリケーション提供業者を,AmazonはKindleで読者と出版社・作者を,Facebookはネットワーク上のコミュニケーションで個人やブランドと別の個人を仲介している。両者の間には,一方の多様性が増せば他方の便益が増すという間接ネットワーク効果が働いており,4社はこの効果を最大化するように事業を行っているのである。

 ビッグデータの収集と分析は,このネットワーク効果を最大化するうえで役に立つ。第1に,ユーザー基盤が大きくなればなるほどサービス品質を改善するためのデータが得られ,さらなるユーザー数の拡大につなげることができる。また,第2に,個々のサービスの利用者の関心を分析することで,そのサービスに補完的な財・サービスの追加投入を支援し,間接ネットワーク効果をいっそう大きくすることができる。

 アプリコ社のアレックス・モザドとニコラス・ジョンソンが指摘するように,「ネットワークをコピーするのは,機能の機能をコピーするよりもずっと難しい」。この意味で,ビッグデータの収集と分析は模倣困難な「経済的に最強の堀」を構築する手段なのである。2018年7月のG20財務相・中央銀行総裁会議ではGAFAらの「データ寡占」とデジタル企業への課税が議論されたが,結論は出なかった。デジタル経済における競争の帰趨は「データ」の多寡と分析能力によって決まると言ってもよいが,競争当局や課税当局の介入の可能性はまだ緒についたばかりである。

関連記事

森原康仁

国際ビジネス

最新のコラム