世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地域銀行の外債投資は非産運用なのか?
(東北学院大学 教授)
2018.07.02
1年ほど前,地域銀行に就職した教え子数名と話す機会があり,地域金融関連の書籍としては異例の大ベストセラーとなった橋本卓典氏の『捨てられる銀行』と,その続編の『捨てられる銀行2 非産運用』について話が盛り上がった。ある教え子は,上司から読書感想文を書くように命じられ,小学生以来の経験で戸惑ったらしいが,日々の仕事に疑問を感じていた彼らにとって,顧客本位の資産運用サービスの重要性を再認識できたというのが共通した感想であった。
翻って地域銀行自身の資産運用を見ると,顧客と同様,総じて芳しくない。特に外債投資の運用成績は目を覆うばかりで,マスコミからは「素人運用」「アマチュア運用」と散々な言われようである。金融のプロであるはずの地域銀行が,なぜ自らの資産運用に失敗するのであろうか。
地域銀行の外債投資の歴史
1983年3月より入手可能な日本銀行公表のデータから地域銀行の外債投資の歴史を概観すると,現在まで3回の拡大局面を経てきたことがわかる。
1回目の拡大局面は1980年代前半から90年代初頭の期間であり,ピーク時の投資残高は約6.4兆円に達するなど,地域銀行は都市銀行を上回る規模の外債投資を行っていた。その背景には金融自由化による預貸利ざやの縮小があり,主に米国債や英国のモーゲージ債に積極的な投資が行われていた。
2回目の拡大局面は1990年代末から2000年代中頃の期間であり,この期間は日本銀行によるゼロ金利政策とほぼ重なる。1999年に3兆円程度であった投資残高は,2005年末には11兆円まで拡大し,有価証券投資全体に占める外債投資の割合(外債比率)も16%近くまで上昇をした。主な投資先は米国債やドイツ国債であったが,米国の事業債にも多くの資金が投じられた。その中にはリーマン・ブラザーズ発行の円建て外債も含まれ,リーマンショック後,一部の地域銀行では数十億円規模の損失を被ったとされる。
そして3回目の拡大局面は,現在の黒田日銀による量的・質的金融緩和政策(異次元金融緩和)が導入された2013年4月から16年末の期間である。長期国債の利回りや貸出金利の低下を背景として,上位地域銀行では数百億円から千億円規模の資金が欧米国債や外債ファンドに投資された。特に2016年1月のマイナス金利政策導入のインパクトは大きく,それ以後わずか10ヶ月間で約2兆円もの外債投資が行われ,投資残高は過去最高の16兆円超に達した。
なお,各行の直近のディスクローシャー誌(2017年3月期)から銀行別の外債投資の状況をみると,各行の投資スタンスの違いが見てとれる。
まず外債投資の平均残高については,最も多い銀行が460億円超,最も少ない銀行がゼロ,平均値は約116億円となっている。ちなみに外債投資を行っていない銀行は8行あり,その多くは資産規模の小さな銀行や大手地銀のグループ傘下に入った銀行が多いが,一方,地域銀行では数少ない海外支店を有し,国際業務の歴史の長い銀行も含まれている。
次に外債比率については,最も高い銀行が約52%,最も低い銀行がゼロ,平均値は12%となっている。
非産運用の実態
日銀による異次元金融緩和政策の導入後,約5兆円を積み増してきた地域銀行の外債投資は,2017年に入ると減少に転じ,2018年4月末時点で約11兆円と,ピーク時から約4兆円も減少した。その背景には,トランプ大統領誕生に伴う米長期金利の急上昇,いわゆる「トランプショック」が挙げられる。ある上位地銀では,主に米国債の価格下落によって約300億円の評価損を計上し,また,地方銀行の中で最も外債比率の高い関西のある中堅銀行では,2期連続で100億円を超える評価損の計上を余儀なくされた。現状では,異次元金融緩和で消耗した経営体力を回復させるために取り組んだ外債投資が,さらに経営体力を奪うという皮肉な結果となっている。
地域銀行の外債投資の問題点として指摘されるのは,運用体制の不備である。『日本金融名鑑(2018年版)』にて把握できる限りで各行の運用部門の陣容を見ると,地方銀行の平均スタッフ数は約22名(最多47名,最少6名),第二地方銀行は約13名(最多35名,最少4名)となっている。無論,有価証券運用の担当者はこれらの数よりも少なく,実際に外債投資に携わっているスタッフは平均で数名,銀行によっては1名で運用しているとされる。運用先が比較的リスク管理が容易な国債や地方債に限られていた時代には,少人数による運用体制でさほど問題はなかったが,現在のように運用額が総資産額の約3〜5割にまで拡大し,運用先や手法が多様化かつ高度化している状況下では,明らかにスタッフ数が不足していると言えよう。
また,主にインカムゲインの獲得を目的とした運用戦略は,運用の機動力を低下させ,市場ショックに対する脆弱性を高めている。メガバンクの外債投資残高の推移を見ると,その振れ幅は大きく,市況に応じて機動的に売買を行っていることがわかるが,一方,地域銀行の振れ幅は非常に小さく,2013年から16年末まで一本調子で増え続けていた。このような機動性を欠く運用戦略が,結果的に米国債の高値掴みにつながり,トランプショック後の価格急落によって,当期純利益の大半が吹き飛ぶほどの評価損を生じさせたことは先述の通りである。
単発機から双発機への転換
地域銀行を航空機に例えるならば,現在,地域銀行は異次元金融緩和の長期化,人口減少に伴う貸出市場の縮小という強い下降気流の真っただ中にいると言える。異次元金融緩和はいずれ終わりを迎えるであろうが,貸出市場は預貸ビジネスが成立しえない水準まで今後縮小するものと予想される。こうした強い下降気流(あるいは乱気流)の中でも揚力を保ち,機体を安定させるには,地域銀行は貸出という1基のエンジンに大きく依存した単発機ではなく,貸出と有価証券投資(外債投資を含む多様な運用)の2基のエンジンを持つ双発機への転換が必要なのではないだろうか。そのためには,外部機関へのトレーニーを通じた人材育成や外部専門人材の中途採用の拡大などによって運用体制の整備を図ることで,非産運用からの脱却が求められる。無論,航空機の安定飛行には,有価証券運用の重要性を十分に理解し,適切なリスク判断と投資決定ができる優秀なパイロット(経営陣)が必要不可欠であることは言うまでもない。
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伊鹿倉正司
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