世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1078
世界経済評論IMPACT No.1078

国際労働力移動の空間と東京と地方

平岩恵里子

(南山大学国際教養学部国際教養学科 准教授)

2018.05.14

 日本の外国人労働者,と一口に言っても,日本各地に均等の密度で住んでいるわけではない。日本を国境で区切らずに,便宜的に分けた地域を一つの国に見立て,それぞれの地域が外国人労働者を採用しているとしよう。日本の外国人労働者政策は,永住者・日本人の配偶者や留学生など,一部の資格を除けば就労のための在留資格が基本だから,日本のどの地域にどんな在留資格で滞在している外国人が多いのか,を見れば,その地域の外国人労働者受入れの方向性が分かる。

 内閣府の県民経済計算による地域ブロックでみると,茨城,栃木,埼玉,千葉,東京,神奈川,山梨,長野の1都7県で構成される関東ブロックの総生産はおよそ1兆8千億ドル,インドほどの経済規模だ。続いて中部ブロック(富山,石川,福井,岐阜,静岡,愛知,三重)はおよそ7,100億ドル,スイスほどの経済規模である。以下,地域ブロック内GDP順は,近畿(トルコ相当),北海道・東北(ポーランド相当),九州(オーストリア相当),中国(フィンランド相当),四国(ハンガリー相当),となる。この7ブロックそれぞれのGDPが日本のGDPに占める割合と,それぞれのブロックにおける在留外国人が日本の在留外国人総数に占める割合が比例関係にあるだろうことは想像できる。実際,GDP比率を縦軸に,外国人比率を縦軸にとると,関東ブロックだけははるか右上に離れてプロットされるものの,各ブロックはほぼ右上がりに並ぶ。

 直感的にもそうだろう,という方向性が見えるのは,東京を擁する関東ブロックと中部ブロック。関東ブロックは,専門的・技術的分野での在留資格で滞在する外国人の,地域内の在留外国人総数に占める割合が他ブロックに比べて高い。中部ブロックは,日系ブラジル人等を対象とした就労自由な在留資格「定住者」割合の高さが目立つ。関東ブロックも2008年金融危機前には「定住者」割合は比較的高く,中部ブロックと並んで製造業の集積地でもあったためだ。

 就労のための在留資格だけで見ると,外国人労働者受入れ政策の話はここで終わる。他の地域ブロックは,技術移転という名目での未熟練労働者雇用を推奨している。

 北海道・東北,中国,四国,九州では在留資格「技能実習」の割合が断然に高い。これらのブロックは金融危機以前から技能実習生(かつての「研修生」もここに含む)受け入れの方針を貫いている。北海道・東北ブロックでは,食料品加工,水産加工,畜産農業に受け入れている。中国ブロックでは衣服・繊維,食料品。四国ブロックの技能実習生の割合は群を抜く高さで,同ブロックの在留外国人総数の40%を占める。従事する分野は農業,衣服・繊維。九州ブロックは食料品加工,繊維・衣服の分野に従事している。

 技能実習生は,中国からベトナムなどASEAN諸国出身者にシフトしつつある。ネパール出身者も増加している。したがって,それぞれの地域ブロックは,未熟練労働需要を満たすためアジアの国々を対象としたゲストワーカー・プログラムを採用していることになる。

 日本の在留外国人は増加しているが,2006年から2016年の10年間に増加した在留外国人の70%をGDP規模で40%を占める関東ブロックが吸収している。在留資格で見れば,専門的・技術的分野,定住,技能実習,留学の,それぞれ増加分の75%,30%,28%,61%を受け入れているのが関東ブロックである。その他のブロックに顕著な増加が認められないのは,ゲストワーカー・プログラムで入れ替わっているだけで,新たな労働力需要を生んでいないからかもしれない。

 東京を中心とした大都市圏が新たな外国人労働者への需要を生む一方,他の地域はゲストワーカー・プログラムで一定の労働需要を満たす。どちらも多くはアジア諸国からの移動であり,国際労働力移動の空間に日本はしっかり組み込まれている。そこから生まれる課題は二つあるだろう。一つは,東京がバンコクやシンガポールなどと競うことのできる多様性に富む都市空間となることができるか否か。もう一つは,長期化することが見込まれる技能実習とその後の就労によって,ドイツやアメリカのようにゲストワーカー・プログラムが当初の見込みを超えた課題を生むことになる可能性である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1078.html)

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