世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1070
世界経済評論IMPACT No.1070

スウェーデンの岩盤研究所で感じたオンサイト中間貯蔵の重要性

橘川武郎

(東京理科大学大学院経営学研究科 教授)

2018.05.07

 使用済み核燃料の処理問題,つまりバックエンド問題は,原発への賛否にかかわらず社会全体が解決を迫られている重大な問題だ。この問題を解決するために,どのような施策を講じるべきであろうか。

 2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」では,使用済み核燃料の最終処分に関して,国が前面に出て対応する方針を打ち出した。しかし,国が主導権をとったとしても,使用済み核燃料の最終処分問題がすぐに解決するとは,到底思えない。

 バックエンド問題に対処するためには,使用済み核燃料を再利用するリサイクル方式をとるにしろ,それを1回の使用で廃棄するワンススルー(直接処分)方式をとるにせよ,最終処分場の立地が避けて通ることのできない課題となる。この立地を実現することは,きわめて難しい。

 最終処分場では使用済み核燃料を地下深く「地層処分」することになるが,その埋蔵情報をきわめて長い期間にわたって正確に伝達することは至難の技である。リサイクル方式をとれば危険な期間は短縮されるかもしれないが,それでも「万年」の単位にわたるという。つまり,伝達期間は少なくとも何百〜何千世代にも及ぶことになる。原発推進派のなかには「地層は安定しているから大丈夫だ」と主張する向きもあるが,それでは地上はどうなのだろうか。例えば,1万年前の日本列島の状況を想像することは,けっして容易なことではない。

 もし,最終処分場の立地が実現することがあるとすれば,それは,使用済み核燃料の容量が小規模化し,危険な期間が大幅に短縮された場合だけだろう。この小規模化と期間短縮について,14年策定の「エネルギー基本計画」は,次のように述べていた。

 「放射性廃棄物を適切に処理・処分し,その減溶化・有害度低減のための技術開発を推進する。具体的には,高速炉や,加速器を用いた核種変換など,放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし,放射性廃棄物の処理・処分の安全性を高める技術等の開発を国際的なネットワークを活用しつつ推進する」。

 「もんじゅについては,廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け,これまでの取組の反省や検証を踏まえ,あらゆる面において徹底的な改革を行い,もんじゅ研究計画に示された研究の成果を取りまとめることを目指し,そのため実施体制の再整備や新規制基準への対応など克服しなければならない課題について,国の責任の下,十分な対応を進める」。

 つまり,「エネルギー基本計画」は,「もんじゅ」の高速炉技術を,これまでのように核燃料の増殖のためでなく,使用済み核燃料の減溶化・有害度低減のために転用するという方針を打ち出していたのである。

 この方針は正しかった。ところが,政府は,16年末,政治的判断で「もんじゅ」の廃炉を決定した。使用済み核燃料の最終処分地を決定するためには,高速炉技術等を使ってイノベーションを起こし,使用済み核燃料の容量を縮小し,危険な期間を大幅に短縮するしか方法がない。「もんじゅ」に替えて,どのように減容炉・毒性軽減炉開発を進めるのか。これが,原子力政策再構築の焦眉の課題なのである。

 別の言い方をすれば,このイノベーションが実現しないと,原子力産業の未来は消えることになる。この点は,日本に限らず,世界全体に当てはまることを忘れてはならない。

 いずれにしてもバックエンド問題の解決には時間がかかるから,その間,原子力発電所の敷地内に,燃料プールとは別の追加的エネルギーを必要としない空冷式冷却装置を設置し,「オンサイト中間貯蔵」を行うことも求められる。

 今年の3月,高レベル放射性廃棄物の研究施設であるエスポ岩盤研究所を見学する機会があった。スウェーデン南部の都市カルマルから車で1時間ほどの距離にある同研究所は,オスカーシャム原子力発電所に隣接する。

 よく知られているように,北欧諸国は,いずれも再生エネルギー大国である。しかし同時に,スウェーデンやフィンランドについては,原子力発電の比率がかなり高く,35%前後に及ぶ(15年)ことも見落としてはならない。したがって,これら両国は,バックエンド問題に真正面から取り組んでいる。スウェーデンは,エスポ岩盤研究所で様々な知見を得たうえで,それを最終処分場として予定しているフォルスマルク原子力発電所隣接地で活かす方針をとる。フィンランドのオルキルオト原子力発電所に隣接するオンカロ最終処分場の建設に際しても,エスポ岩盤研究所で得られた知見が役に立っているそうだ。

 エスポ岩盤研究所の関係者に導かれて,地下420mの現場に立った。凛とした緊張感だけでなく,30年の歳月がすでに経過している(実施主体のSKB社が地下研究所の計画を発表したのは1986年)重みも,身にしみて感じることができた。

 スウェーデンのエスポ岩盤研究所もフィンランドのオンカロ処分場も,原子力発電所に隣接する,事実上「オンサイト」の施設である。繰り返し言うが,日本において,「もし,最終処分場の立地が実現することがあるとすれば,それは,使用済み核燃料の容量が小規模化し,危険な期間が大幅に短縮された場合だけだろう」。そのための技術革新には時間がかかるが,その間は,「オンサイト中間貯蔵」を行い,それを受け入れる地元にはきちんと保管料を払う仕組みを導入せざるをえない。スウェーデンとフィンランドでは最終処分がらみ,日本では中間貯蔵がらみ,という違いはあるが,いずれも,バックエンド問題の対策に関してはオンサイトが重要であるという点では変りがない。そのことを痛感させられた,エスポ岩盤研究所の見学であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1070.html)

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