世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1052

ケンブリッジ・アナリティカ問題と犯罪対策

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2018.04.16

 現地時間4月9日フェイスブック(FB)社長ザッカーバーグは,数千万人分の個人データが,トランプ大統領の選挙を応援したケンブリッジ・アナリティカ(CA)社に不適切に流出した問題に関して証言した。その結果の一つとして米国でも日本の個人情報保護法と類似した法律が検討され,またEUでは既に年内施行予定で準備中である。

 しかし個人情報保護とは,それほど大事なものなのだろうか?

 実はCA社を動かしたトランプ政権の後見人マーサー氏は,別会社を通じてグーグルにも働きかけ,2016年大統領選挙で態度未定の人々に対してイスラム系テロの恐怖を見せるビデオ等を視聴させるように仕向けることもしている。この会社の税務報告等に問題があったことは確からしい。FB社からCA社へのデータ移行が規則違反だった可能性があることと同じである。

 だが前記のようなビデオを見た人が必ずトランプ氏に投票するとは限らない。FB社を使ったCA社の選挙戦略にも似た部分もあったと思う。イスラムのテロ対策はヒラリーも主張していた。テレビCMを見て,どの製品を購入するかと同じ問題でしかない。

 更に,この選挙戦略はオバマが2012年に始めたもので,FB社は数百万人のデータをオバマ選対に提供し,それは現物供与として政治資金報告されていない。トランプ氏はCA社に謝礼を払って選挙応援をして貰ったことを報告している。

 何れにしても自分に有用な情報を自分のデータから解析してピンポイントで広告等の形で提供して貰うのは有意義な事である。だからFB社もグーグル等も大発展して来た。それが選挙に応用されても何の問題もない。

 それどころかグーグルは,テロの思想や手口等に関して,一人で頻繁に検索をしている人のパソコン画面等に,イスラム系テロ組織の恐ろしい実態を見せるビデオが流れるようにしている。それでISへの参加者が8割以上も減少したという。

 これは中立性保持のためにグーグルが別会社やNPOに委託した形で行っている。IPアドレスで当該人物の住所や,テロへの強い関心等がなくならない事まで分かるようだが,やはり直接訪問までは難しいらしい。

 これと似たことが日本でも自殺防止に関しては行われていることは,昨年の座間事件で知られるようになった。明確な自殺の意図を表明している場合には,緊急避難の法理により住所等の情報を警察に与えることは,2005年から日本のネット事業者団体のガイドラインにより行われている。

 しかし検索履歴等からテロや犯罪を行うリスクが高いと判断した人がいたとしても,警察はおろか精神的な悩みの相談に乗るNPO等に住所まで含めた情報を共有することは出来ない。自殺も明確な意図等を表明していなければ同じである。

 それは個人情報保護法が壁になっているからである。明確な生命の危険等がない限り,データ解析だけで当該人物の住所まで外部に出すことは違反になる。しかしグーグルやFB社のピンポイント広告の正確性を考えると,テロや犯罪,自殺等に走るリスクは,データ解析だけでも出来るのではないか?

 やはり“個人情報保護法という壁”を薄くする必要があるのではないか? テロや犯罪に走るリスクがあると検索履歴等のデータから解析された人に関しては,少なくとも精神的悩みのある人の相談に乗るNPO等とネット事業者とが,情報共有しても良いように思う。

 特に最近の社会的変動の結果,精神的に不安定で,場合によっては異常犯罪等を起こすリスクのある人が増えているように思う。座間事件や相模原事件等は,その良い例だろう。そのような人々は必ず事前に自己正当化の思想や手口等を,ネットで検索している筈である。

 今まで書いて来たような“個人情報保護法という壁”を薄くすることに関して,プライバシーや人権の観点から強い抵抗があるかもしれない。だがプライバシーや人権と,自分や自分の愛する家族や友人の生命と,どちらが大切なのか?

 まして米国のテロ対策ように異常犯罪等を起こした人が辿る悲惨な末路に関するビデオや,自殺対策の場合のように相談窓口等の広告を,そのような悩める犯罪者予備軍のパソコン画面に出すことは,今でも出来る筈である。

 そのような犯罪対策と選挙戦略と通常のビジネスを分けて考える必要はないのではないか? データを他社に移管したこと等の記録を確実に残させれば良いのではないか? 既に通常のビジネス等に関しては,日本の個人情報保護法でも可能になっている。但し固有名詞や住所等は削除することになっているが,これは前記のテロや犯罪,自殺の防止に関しては例外にするように法改正すれば良いだろう。

 何れにしてもグーグルやFB社のピンポイント広告は,選挙対策も含めて優秀なビジネス・ツールである。犯罪防止等にも役立つ。トランプ氏の選挙対策に使われたから萎縮させるというのは保守派への逆差別である。

 今回の問題でFB社は政治関係のコミュニティや投稿等の削除を強化したが,そのため逆にロヒンギャ族保護団体が困ったという。どのような投稿が例えばテロ等を助長する内容なので削除するかに関するガイドライン等を法令で作ることの方が個人情報保護の強化より重要ではないか?

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吉川圭一

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