世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
今年の米国中間選挙に向けての予測:ペンシルベニア補欠選挙も参考として…
(Global Issues Institute(株) CEO)
2018.03.26
3月13日ペンシルバニア州第18地区で行われた下院議員補欠選挙で,民主党ラム候補が非常な僅差ながら共和党サコーン候補を破った。この選挙区は2年前トランプ氏がヒラリーに1.2倍の差を付けて勝った地区の筈だった。
既に民主党は約100の共和党の有力な現職のいる下院の選挙区に有力な刺客候補を立てており,共和党が民主党の有力現職のいる選挙区に有力な刺客を立てているのは,約40選挙区である。
更に40人の共和党現職議員が引退を表明している。これは史上最多記録であると言われている。
またジョージタウン大学が最近行った調査では,中間選挙に積極的に参加をしたいと考えている人は,民主党支持者で51%,共和党支持者で39%。前回の調査では49%対41%だったので差が開く一方である。
こうしてみると今年の中間選挙で共和党は惨敗しそうに思える。しかし別の見方もある。
実は中間選挙というのは大統領の人気や支持率を反映せず,むしろ大統領の与党には,必ずマイナスに作用している。オバマ時代も中間選挙で民主党は大敗している。それも大統領選挙でオバマに投票した数百万人の人々の棄権が原因と言われている。
そのような中間選挙の特性を見抜いていたのか,実はビル・クリントン時代に今年の共和党と同じくらいの数の民主党の国会議員が中間選挙での引退を表明している。今年,引退を表明している民主党の議員は今のところ約15名だが,これは民主党に不利な状況が分かっていた2014年と同じくらいである。
つまり例年通りの状況が起こっているに過ぎない面もある。
候補者や選挙区の問題も重要だ。ペンシルバニア第18地区は都市部の急速な人口増加のため,いずれにしても今年の中間選挙で分区される予定だ。ラム議員は例によって都市部で大勝しただけで,農村部ではサコーン候補が勝っている。
実は都市部の急速な人口増加が起こる前の2012年までは,この選挙区で共和党の大統領候補は民主党の大統領候補の1.2倍ではなく2倍以上の得票をしていた。そのような人口動態による支持構造の変化も選挙結果には大きな影響を与える。
何れにしても保守的な価値観の地区だが,サコーン候補は余りにトランプ=バノン的な極右であり過ぎた。銃規制や妊娠中絶に反対なだけではなく,極端な「小さな政府」主義者であり,また公立学校での宗教教育にも力を入れて来た。
それに対するラム候補は,民主党の候補にも関わらず,銃規制や妊娠中絶には反対。それ以上にペロシ院内総務を徹底的に党内から批判して当選した。
そのため重要な補欠選挙で勝ったにも関わらず,民主党内ではペロシ総務の責任論が浮上している。ペロシ氏はサンダース上院議員ほどではないが極左的な立場の人物である。
米国の特に下院議員の選挙では,選挙区特性の関係で民主党ないし共和党の候補者になれれば自動的に当選できる選挙区も少なくない。すると一部の熱心な極左,極右の活動家に推された候補者が有利になる。それが民主,共和両党の特に下院議員に極左,極右が多く,そのため議会内の取引で建設的な立法活動が出来ない理由の一つだ。
それに対する米国国民の批判が出て中道派が当選し易いのが中間選挙ないし補欠選挙だとも考えられる。今回のペンシルバニアは良い例かも知れない。
それを理解したのかトランプ大統領は,ペンシルベニアの補欠選挙の結果が出た直後,ネヴァダ州の上院議員選挙の共和党予備選挙で,穏健派の現職に挑戦する予定だった自らと思想の近い候補者を,下院議員の選挙に出馬させる方向で調整した。
この候補者はバノン氏が強力に推していた。バノン氏完全失脚の遠因も,この辺りにあったのかもしれない。
だが中間選挙と大統領選挙は違う。大統領選挙の年には国会議員の選挙でも,人気のある大統領候補と同じ政党で同じ思想・信条を持つ候補者が有利になる。
今年の中間選挙で上院では,共和党の改選8人に対して民主党の改選25人。民主党改選議員の内の10人がトランプ氏がヒラリーに勝った州選出である。
少なくとも上院では今年の中間選挙で共和党は心配ないようにも思われる。しかし大統領選挙が行われる2020年には逆に共和党の改選が20人以上で民主党の改選が10人程度である。
そして今回のペンシルベニアの補欠選挙が行われた地区での世論調査でも,トランプ大統領の人気は落ちていなかった。選挙結果は上記のような中間選挙独特のものではないか?
こう考えと「バノン派の逆襲」は,今年の中間選挙が終わってから,2020年までの間に起こる可能性が高い。
しかし今年の中間選挙で共和党が下院で過半数を割る可能性は決して低くはないようにも思われる。それを打破するには米国国民がトランプ大統領の下に精神的に団結せざるを得ないような状況を作ることが望ましい。
イラン核合意の次の見直し期限は5月12日だそうである。米朝の首脳会談が予定されているのと奇しくも同じ月である。この周辺は国際政治上の動乱が起こらないか要注意すべき時期だろう。
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吉川圭一
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