世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4119
世界経済評論IMPACT No.4119

物流ハブとして拡大するハイフォン経済圏

藤村 学

(青山学院大学経済学部 教授)

2025.12.08

 25年8月,ベトナムの北中部を3週間かけて視察調査した。本稿では8年前の同地域視察と比べて最も変化が激しいと感じたハイフォンについて報告する。

 25年7月に発動したベトナム全国の省市再編(63省市から34省市へ)により,旧ハイフォン市と西隣のハンズオン省が合併し,新ハイフォン市の面積は約2倍(3195㎢),人口も約2倍(406万人)になった。外国直接投資累積額(24年末)はハノイ市(約424億ドル)をしのぐ約437億ドルにのぼる。

 ハイフォン市街からカム川沿いに東方向に延びるアジアハイウェイ(AH)14号線沿線には物流拠点を象徴する倉庫群やコンテナデポット群が並ぶ。同道路の南側にはディンブー(Dinh Vu)工業団地,DeepC1およびDeepC2工業団地が混然一体となって立地する。この区域で今回目視できた入居企業だけでもKNAUF(ドイツ系建材メーカー,8年前も見た)Tamada (日系,タンクなど銅構造製品の生産か),Juichiya(鋼構造部品の生産か),IHI Infrastructure Asiaなどハイフォン周辺の様々なインフラ建設需要に対応したと思われる企業のほか,ブリヂストン(8年前も見たが敷地を拡張したもよう),日本通運(8年前は物流センターだけだったと思うが,今回エンジニアリング棟が増設されている),VINASANFU(台湾系,化学製品生産か),Long Vuong Hai Phong(中国系,合成ゴム,樹脂など生産か),日本酸素などがある。AH14の北側にはFlat Glass(中国系,太陽光パネル生産か)が立地している。

 AH14の東端には広大な埋め立て地にナムディンブー工業団地が拡大中だ。新しく造成されたコンテナヤードはすでに稼働しているようだ。カム川沿いのコンテナ積み下ろしの作業の大半はここへ移動しているものと推測する。

 8年前,ハイフォン市の東に位置するカットハイ島へ渡す海上大橋(アクセス道路を含め全長15.63km)を国際協力機構(JICA)の円借款と伊藤忠・商船三井などが参画するPPPにより建設中だったが,その後すぐ2018年に開通した。カットハイ島に渡ると,大橋と同じ名前の東西に延びるメインストリートTan Vu-Lach Huyen通りの南側にはベトナム最大の財閥であるビングループ(Vingroup)傘下の自動車メーカー,ビンファストの工場が3~4棟立地する。その北側の広大な空き地はベトナム地場の娯楽施設大手Sun Worldが開発中であり,その手始めとして東のカットバ島へ渡す壮大な洋上ケーブルカーとフェリー港が稼働している。

 メインストリートの南東端にラックフェン港がある。約2.5kmの長い防波堤が伸びており,それに沿って港湾運営事務所や税関事務所と思われる建物が並ぶ。防波堤の終点にはHATECO というコンテナヤードがある。25年4月にオープンしたとの現地報道がある。拡張を続けるコンテナヤードを複数の区分に分けて入札で運営会社を割り当てているのかもしれない。

 2025年7月の現地報道によれば,ラックフェン港は今後新たにコンテナバースを4基(現状は計8基)建設する計画がある。総投資額は約10億ドルで着岸可能距離は合計1,800mとなるという。さらにこれに先立つ2024年11月の現地報道によれば,ハイフォン市当局は約3.6億ドルを投じ,既存の大橋の北側に並行する第2海上橋を建設する計画を公表している。26~30年に建設が進められる予定だという。建設費用の4分の3は韓国経済開発協力基金(EDCF)からの融資,4分の1はベトナム側の負担で賄う計画だ。ラックフェン港の取扱い貨物量が急増するとともに,カットハイ島から世界自然遺産カットバ諸島への観光需要増加に対応するためだという。

 2025年7月の別の現地報道によれば,ラオカイ(雲南省との国境街)~ハノイ~ハイフォンを結ぶ鉄道建設が始動した。総延長約419km(全34駅)で,起点はラオカイ国境駅,終点はラックフェン駅とし,総投資額は約83.7億ドル,2025年12月に着工予定とされる。

 筆者による以前の視察調査では中越国境の各鉄道駅で中国基準の標準軌(1435mm)線路が乗り入れ,ベトナム国鉄のメートル軌線路が併設された「3本線路」が敷かれていることを確認した。ハイフォン駅にも同様の線路が敷設されているようだが,今回,ハイフォン駅のスタッフに確認したところ,同駅周辺には住宅が多く道路交通が激しく危険なので,標準軌列車を運行するとすれば,郊外に新ハイフォン駅を建設することになるだろうという。ハノイ首都圏も事情は同じだとすれば,中国式標準軌の新鉄道ルートは,ハノイ中心部とハイフォン中心部を迂回するものと思われる。

 ハイフォン鉄道駅からはカム川方向に1本線路が延伸し,「3番桟橋」(Cong Cang 3)経由で「ハイフォン港駅」まで延びている。しかしその敷地内に入ってみると,廃車となった貨車が何本も野ざらしになっている。比較的立派な駅舎と思われる建物にはスタッフらしき人影はなく,無造作に駐車しているトラックの運転手に聞いたところ,ここは中古コンテナトレーラーの販売展示場と化しているという話だった。この周辺で一番目立ったのは高架道路・架橋の工事現場だ。現地報道によれば,工事中の橋はカム川に架かる第6番目の橋「グエンチャイNgyuen Trai橋」(全長1,476m)である。24年12月に着工し,対岸のハイフォン新行政区とつなぐものだ。

 市街中心部からカム川沿いの旧フェリー乗り場の辺りに建設された螺旋状の立体交差を登り,Hoang Van Thu橋を北へ渡ると,ほぼフラットな土地に新行政都市を整備中だ。片側4車線の南北に延びるメインストリートDo Muoi通りの西側に斬新なデザインの市庁舎が建つ。両端は高層(15階建てか)のツインビルになっている。その新庁舎の向かいのイベント構築物は完成して間もないようで,駐車場がまだ整備されておらず,職員や関係者の乗用車が無造作に駐車していた。新行政都区はこれから大きく変貌しそうだ。

 2013年と2017年にハイフォンを訪れたときは,カム川の南と北は西側の大橋1本でしか結ばれていなかったが,現在はHoang Van Thu橋とその4km東にも新しい橋ができており,そのさらに東郊ではクアンニン省のハロン湾まで結ぶ高速道路CT06号線が開通している。新ハイフォン市はこれからの発展の定点観測に再び戻る必要がありそうだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4119.html)

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