世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
2026年の株価はどうなるか
(武者リサーチ 代表)
2025.12.08
2025年10月高市氏が日本初の女性首相に選任されたことで,日本株式の長期上昇トレンドに弾みがつく可能性が高いと考える。目先は高市政策の本領が未だ見えてこないこと,中国の異常な対日批判などにより踊り場が続くが,国内経済の浮揚感と高市政権の長期政権化が見えてくれば騰勢を再開する可能性が高い。もともと日本株は1)超割安(株式益回り5.6%,配当利回り2.4%,国債利回り1.8%,預金金利0.2~0.5%と株のリターンが圧倒的に高い),2)超好需給(個人,外国人,年金,企業の潜在的株式需要甚大),に加えて株高に必須の,3)株高ストーリーが,高市政策で整う。国内・海外全投資家層はFOMO(日本株を持たざるリスク)を痛切に感ずることになるだろう。
早まる解散総選挙,高市政権は政治資本(Political Capital)の引き上げを狙う
当面のヤマは解散総選挙であろう。高市首相の支持率は空前,特に若年層の支持率は8割と圧倒的であるが,少数与党で政権運営は不安定である。また,今回の政変劇は,選挙の洗礼を経ておらず国民の信任を得ているとは言えない。これまでの自公連立はリベラル中道連合 (憲法改正やスパイ防止法,防衛力増強などを後回しにしてLGBT法や選択的夫婦別姓などリベラル政策と財政健全化路線を推進)と言えるものであった。それに対して自民維新の新連合は保守連合(改憲,自主防衛,積極財政)と言え,これは保守革命ともいえる基軸の大旋回である。これほどの路線転換が成された以上,国民の審判を受けるべきという世論は高まる。加えて国家安全保障問題が最大関心事として浮上した。中国は11月7日の高市首相の国会答弁を,日本が台湾有事に介入する姿勢を見せたと難をつけて,強烈な対日嫌がらせと答弁撤回(=台湾有事不介入の約束)を求めている。日本は対中宥和を継続するべきか,現実主義にシフトするべきかの選択を迫られている。
高市首相は積極財政とともに,国家安全保障戦略を争点に押し立てて,解散総選挙に打って出るであろう。選挙では対中宥和を唱えるリベラル勢力が敗れ,日本の政策軸が保守・ナショナリズムと積極財政に傾く可能性が強い。
焦眉の課題,個人消費の引き上げによる潜在成長率回復
2026年の高市政権の課題は国民生活の向上,消費の回復により日本の潜在成長率を押し上げることである。アベノミクスは最も困難な企業の稼ぐ力を取り戻すことに成功したが,肝心の国民生活は全く改善していない。実質家計消費は2014年1Q(消費税増税直前)以降10年以上にわたってマイナス状態が続き,直近でもピーク時比−4%である。この10年間日本は生活水準において他国に大きく引き離されてしまった。主因は2012年に成立した「社会保障と税の一体改革」により,社会保険料引き上げと2度の消費税増税を余儀なくされたためである。税に社会保険料を加えた国民負担率(対国民所得比)は2011年の38.8%から2022年の48.4%まで乱暴なほどに押し上げられた。
2022年以降インフレが起き,円安も伴って名目GNI(名目GDP+海外所得)は4%の成長が定着し,日本に成長が戻ってきた。インフレにより企業利益と株価はさらに押し上げられ,税収も恒常的に大幅上振れを続けている。日本の財政赤字(対GDP比)は2024年2.05%(OECD推計)とG7で最小となっている。しかしインフレは家計に追い打ちをかけている。ようやく賃金上昇が定着してきたものの,それを上回るインフレにより実質賃金は減少を余儀なくされている。こうして現在の日本経済には,企業収益や税収,株価の顕著な回復と国民生活の疲弊というコントラストがもたらされているのである。
何故減税が決定的に重要なのか
高市政権の使命はこのアンバランスの是正にあるが,そのカギは減税である。何故減税なのか,それは第一に財政に余裕があり消費が低迷して国民の不満が強まっていること,第二に減税は先進国における景気対策の世界標準であること,第三に減税は景気拡大と税収増をもたらすこと,が明白明だからである。
そもそも減税を議論する時,財政赤字増加と将来世代への借金の付け回しと言うデメリットのみが語られて,メリットが殆ど俎上に上ってこなかったのは不思議である。減税のメリットは,減税乗数と税収弾性値と言う二つの変数で説明できる。減税乗数とは1の減税がどれだけ最終需要を生むかと言う変数で,経験的に2~3と見られている。また税収弾性値とは1%のGDP成長率が何%税収を増やすかであり,財務省の公式見解はこれまで1.1,今年1.2に修正されたが,著しく実態から乖離している。この点を指摘した日本維新の会前参院議員柳ケ瀬裕文氏への政府答弁(2025年2月4日)で過去10年間の平均税収弾性値は3.23であることが明らかになった。この二つの変数によって減税が経済と税収にどのような変化をもたらすのか,試算してみよう。仮に6兆円(対GDP比1%)減税すると,最終需要は12~18兆円,2~3%増加する。これに柳ケ瀬議員に対する政府答弁3.23を乗ずると,税収は6.46~9.69%増加する。2025年の税収を80兆円と見積もると,2026年の税収は5.17~7.75兆円増加すると計算される。つまり減税分はまるまる将来の税収増で回収できるのである。
経済がフル稼働状態で需給ギャップが無い場合に,減税をすればインフレが高まるという懸念はもっともであるが,その場合には名目経済成長率が高まり税収はさらに増加する。
積極財政のリスクとして金利上昇,イギリスにおけるトラスショックが引き合いに出される。しかしその心配は全くない。トラスショックは,経常収支対GDP比4%の赤字という著しい貯蓄不足国英国で起きたこと,日本は経常黒字が対GDP比4%という世界有数の過剰貯蓄国で英国とは正反対のポジションにある。今日本ではデフレ終焉と投資意欲(=資金需要)の復活が金利上昇を引き起こしているが,それは成長と株高をもたらす良い金利上昇である。
日本のルネサンスが始まる
賃金上昇に減税が加わると家計の可処分所得は大きく増加し消費が喚起される。またインフレと資産価格上昇によりアニマルスピリットが復活してきた。加えて円安・米中対立の下で日本への投資・工場回帰起きつつある。政治経済混迷が強まる米国,中国,欧州に対して,政治の安定,絶好調の企業収益の下で,経済心理の大転換が起きている日本が,世界のブライトスポットになることはほぼ確実であろう。
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