世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4278
世界経済評論IMPACT No.4278

高まる米国経済の先行きの不透明感

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2026.03.23

就業者数の伸び率は低下基調

 3月6日発表の2月分米国雇用統計によれば,民間非農業部門の就業者数は前月比8万6000人減となり,12月分,1月分は下方修正されました。就業者数の前年同月比伸び率は,2023年2月の+2.9%から24年2月には+1.1%,25年2月は+0.5%,26年2月は+0.3%と低下基調にあります。一方,週当たり賃金は26年2月前年同月比で+4.1%となり,2カ月連続で4%を上回りました。コロナ禍前の2019年10月から2020年3月には2%台の伸びでしたが,コロナ禍後はそれより高い上昇率が続いています。

消費者物価インフレ率の再上昇の可能性

 3月11日発表の2月分消費者物価指数によれば,全体では前年同月比+2.4%,食品,エネルギーを除くコアは同+2.5%と1月から横這いでした。一方,基調的インフレ率の指標である消費者物価中央値の前年同月比上昇率は,2023年2月+7.0%から24年2月には+4.7%,25年2月は+3.5%,26年2月には+2.8%と落ち着いてきたものの,FRBが目標とする2%には多少の距離を残しています。さらに,米国とイスラエルによるイラン攻撃で原油などのエネルギーを中心に国際商品価格は足元で急上昇しました。ブルムバーグ商品価格指数(月末値)の前年同月比上昇率は,2024年12月の+0.1%,25年12月+11.1%でしたが,26年3月(18日時点)には+26.4%となりました。戦闘が終了しても,イランや周辺地域の不安定な状況が続いてエネルギー価格は高止まりしそうです。それが消費者物価に波及し,インフレ率が再上昇する可能性もあります。

 3月17,18日開催のFOMCでは大方の予想通り1月のFOMCに続いて利下げは見送られました。FOMC参加者の経済見通しの中央値によれば,2026年10−12月期のコア個人消費支出価格の前年同期比上昇率は,25年12月の前回見通しの+2.5%から+2.7%へと上方修正されました。トランプ大統領は元FRB理事のウォーシュ氏を次期FRB議長に指名しましたが,司法省によるパウエル現議長への刑事捜査に反発する議員の抵抗で,議会による次期議長承認時期は見通せない状況です。たとえ,早期にウォーシュ氏が議会で承認されても,インフレ率の低下が進まなければトランプ大統領の期待通りに利下げは進みそうにありません。雇用鈍化の中で利下げが遅れると,景気悪化懸念が高まりそうです。

知的財産投資の増大と労働分配率の低迷

 雇用の鈍化は,短期的問題に留まらないようです。米国の民間設備投資の内訳を見ると,下の表が示すように,近年AIなどを含む無形の知的財産投資が設備投資の主役になってきました。それにつれて,企業部門の労働分配率は2000年以降,低下傾向にあります。AIなどへの投資が増大して生産性が向上しても,雇用や家計の主たる所得源である雇用者報酬は伸びず,個人消費支出の伸びが鈍り,経済の需要側の成長率が供給側の成長率を下回って需要不足が慢性化し,結果的に付加価値成長率のトレンドが低下する可能性があります。米国経済は,景気循環の範疇を超えた構造的問題を抱えており,先行きの不透明感が高まっています。

  • 米国の民間非住宅投資の構成比と企業部門労働分配率(%)
  •      年    1980 1990 2000 2010 2020 2025
  • 民間非住宅投資構成比
  •  知的財産投資  13.4  22.2  27.4  33.3  39.5  40.3
  •  情報機器投資  14.5  17.5  19.6  17.7  13.9  14.7
  •  情報機器以外の設備・機器投資
  •          38.7  32.8  31.5  27.1  24.8  23.9
  •  構築物投資   33.5  27.4  21.4  21.9  21.7  21.0
  •  
  • 企業部門労働分配率
  •          80.9  81.9  81.8  74.8  75.1  72.2
  • (注)企業部門労働分配率=雇用者報酬/(間接税・補助金を除く純付加価値) 2025年の値は1-3月期から7-9月期までの平均値
  • (出所)米商務省経済分析局
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4278.html)

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