世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本で高まるスタグフレーションの懸念
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.03.16
落ち着きを見せる基調的インフレ率
1月の日本の消費者物価指数は,生鮮食品を除く総合で前年同月比+2.0%と,2025年12月の+2.4%から低下して2年振りの低い伸びとなりました。エネルギーと食品(酒類を除く)を除く米国流のコア・インフレ率は,同+1.3%となり,12月の+1.5%から低下しました。日銀が基調的インフレ率の指標としている消費者物価刈込平均値と加重中央値は各+1.7%,+0.8%となりました。消費者物価の基調的インフレ率は,日銀が目標とする2%を下回る所で落ち着きつつあるように見えます。
再加速の兆しが見える輸入物価
ただ,このまま消費者物価インフレ率が,2%かそれ以下に留まるとは限りません。日本の輸入物価と相関が強い円建てに換算したブルムバーグ商品価格指数は,円安に加えて米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響もあって3月(10日時点)には前年同月比+28.5%と,1月末,2月末の同+17.7%,+22.7%から上昇率を高めています。戦闘が終了しても,イランや周辺地域の不安定な状況が続き,原油などのエネルギーの価格が高止まりする可能性があります。日本の円ベースの輸入物価は,2月には前年同月比+2.8%と1月の+0.5%から上昇しました。今後はさらに上昇率が高まり,それが次第に国内企業物価や消費者物価へと波及しそうです。
難しさを増す財政・金融政策の運営
エネルギー価格が高止まると,エネルギー輸入依存度が高いアジア地域の景気悪化を招き,日本の輸出が減退するでしょう。一方,輸入物価の上昇が国内物価に波及すると,家計最終消費支出などの内需も減退しそうです。日本の2025年10-12月期実質GDPは,3月10日発表された2次速報値によれば,前期比年率換算値で+1.3%と1次速報値の+0.2%から上方修正されました。ただ,7-9月期の同-2.6%の落ち込みを相殺するには至らず,前年同期比では2025年4-6月期の+2.1%から7-9月期は+0.7%,10-12月期は+0.5%へと低下しています。エネルギー価格の上昇によってインフレが再加速する一方で景気はさらに鈍化しかねず,スタグフレーションの懸念が高まっています。
これに対し,財政政策面では2026年度当初予算規模は大きいものの,予算執行には時間がかかり,景気刺激効果がすぐには出ない可能性があります。食品消費税引下げの実現は確定的ではなく,実現しても開始は2026年度末頃になりそうです。短期的にはエネルギー関連の税軽減措置程度しか,有効な対策は無いかもしれません。金融政策での対応はさらに難しそうです。インフレ抑制には早期利上げが必要とも考えられますが,景気にはマイナスに働くでしょう。
10-12月期GDP統計1次速報値をもとにした内閣府によるGDPギャップ推計値は−0.1%でしたが,2次速報値に基づくと,GDPギャップは+0.1%程度に修正されそうです。一方,10-12月期のGDPデフレーターは前年同期比+3.4%と,7-9月期の+3.5%から大きく変わらず,5四半期連続で3%を超えました。経済全体の需給が概ね均衡状態にあり,GDPデフレーター上昇率が高止まっている中では,もともと財政・金融両面で政策発動の余地は小さかったと言えます。足元での国際的なエネルギー価格の上昇で,政策運営の難しさはさらに増したようです。
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