世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1035

人民元を再び国際化するためには,何が必要か

中條誠一

(中央大学経済学部 教授)

2018.03.19

 2009年に本格化して以来,人民元の国際化は目覚ましい進展を見せ,2015年にはIMFにおいて,人民元はSDRの構成通貨に入ることが決定された。しかし皮肉なことに,その頃をピークに退潮傾向に陥っている。

 中国は国策として人民元の国際化を推進してきたが,内外金融市場をほぼ遮断しながらという他の国際通貨国とは異なる方策をとってきた。つまり,人民元の国際化のメイン舞台は資本取引ではなく,経常取引とそれによって香港などに流出したオフショア人民元市場であるといえる。この「いびつな国際化」の脆さが,近年の人民元安の中で表面化したことが退潮の根底にあるといっても過言ではない。強い人民元の先高感は,海外の輸出者(中国側の輸入)に人民元建て取引を選好させただけでなく,それで海外に流出したオフショア人民元を拡大してきたが,その歯車が狂ってしまったからである。

今後,中国は何をなすべきか

 これに対して,中国は資本取引の規制強化,ドル売り・人民元買いの市場介入などを実施し,最近ようやく人民元の下落に歯止めをかけることができた。これらの措置は,人民元の国際化の流れにブレーキをかける行為であるが,当面の対処療法としてはやむを得ないといえる。

 しかし今後は,まず第1に再び人民元への信認を取り戻すために,中国経済を安定成長軌道に乗せて行かなければならない,そのためには,経済発展戦略を投資・輸出主導型から内需主導型へと転換するとともに,産業・貿易構造を高付加価値型,技術・知識集約型へと高度化することによって,「新常態」への移行を果たすことが不可欠となる。それなくしては,国際通貨としての人民元の安定性を確保できないからである。

 次に必要なことは,金融改革を推進し,それによって資本取引の自由化を図ることである。

 「いびつな国際化」のままでは,人民元を本当の意味で国際通貨にするのには限界がある。やはり,証券投資や国際融資などの資本取引において,本格的に人民元が使用でき,保有できるようにしていかなければならない。したがって,依然として規制の厳しい資本取引を自由化していかなければならないが,そのためには中国の金融市場を近代化し,強固な金融システムを構築することが大前提となる。それなくしては,自由化によって内外資本交流が巨額化する中で,国内金融市場,ひいては中国経済の安定的運営が難しくなるからである。

今後,アジアで期待される環境変化

 中国自身がこのような努力をしたからといって,それだけで人民元が国際化,とりわけアジアの中心的通貨になれるわけではない。そのためには,アジアにおいて次のような環境の変化が起こらなければならない。

 一つは,アジアの域内貿易や資本取引が拡大し,かつそこにおいて中国の存在感が増すことである。特に,アジアの貿易構造がこれまでの欧米市場に依存した「三角貿易構造」から域内での取引が錯綜する「自己完結型貿易構造」へとシフトしなければならない。そうなれば,アジア各国の企業は,為替リスクヘッジの観点から域内取引をドル建てから域内通貨,とりわけ人民元建てに転換する素地が整うからである。

 それと同時に,アジア各国政府がその為替制度・政策において,アンカー通貨を今のドルから人民元に転換することが望まれる。ドルと人民元の変動性が増すとともに,やがてアジア各国はどちらに自国通貨を連動させるかを決めなければならない。その時に,域内貿易や資本取引が上述のような変容をきたしていれば,人民元を選択する国が多くなろう。そうなれば,ますますアジアの民間取引は拡大し,構造的な変化を遂げると期待される。中国自身の努力だけでなく,人民元を取り巻く環境がこのように転換するならば,アジアでは人民元がドルに取って代わることも夢ではない。

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中條誠一

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