世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国「一帯一路」に対する日本政府と企業サイドの温度差
2018.02.26
中国の「一帯一路」は,周知のとおり,世界人口の6割強を巻き込み,世界GDPの約3割を占める巨大な経済圏を目指す戦略である。一帯一路とは,陸路で中国と欧州を結ぶ「シルクロード(一帯)」と,海路でインド洋までつなぐ「21世紀海上シルクロード(一路)」を指す。中国商務部のHPでは,中国の周辺にあるアジアの国々は25カ国であり,その中で22カ国が「一帯一路」の沿線にあるが,その沿線の国々のインフラと港の建設に投資し,各国における貿易の活性化を目指すとする。
巨大な経済圏,それを実現するために,中国は2017年に一帯一路の沿線国,シンガポール・マレーシア・ラオスなどの59カ国に,非金融分野に対し143億ドルの直接投資を行ったと中国商務部は公表した。また,中国の企業が「一帯一路」沿線の国々と結んだインフラなどの外注契約は1,443億ドルで,これは同年に中国が結んだ海外との外注契約の半分を占めた。
人民日報は,中国が推進する「一帯一路」は,「相手が負けて我が勝つ,勝ったものが全部を食べる」という古い観念を乗り越え,国際社会に互恵の相互利益,協力して共に勝つという発展の新理念と協力の新しいメカニズムであると言及した。「一帯一路」を建設するなかで,各参加国は平等な貢献者・受益者であり,甘苦を共にし,グローバル経済における問題と挑戦に連携して対応するとした。
「一帯一路」は魅力のある巨大な経済圏である。一帯一路の沿線の国々には,今現在発展途上国が多いことを考慮すると,今後「一帯一路」の市場規模は更に大きくなることが予測できる。2017年10月20日に東京都内で日本・経団連と韓国・全国経済人連合会(全経連)は懇談会を開き,中国の一帯一路戦略に関するプロジェクトで情報交換を深めるなど協力拡大で合意した。巨大な経済圏,その魅力は日本のみならず,韓国においても同様である。
日本の経済界も当然,一帯一路に魅力を感じている。2017年11月21日,経団連をはじめとした合同訪中団が北京を訪れ,中国の李克強首相と会談し,一帯一路戦略に経済協力をするため,「インフラ整備などに関する共同研究体制の構築」などの提言書を李首相に提出した。中国共産党第19回全国代表大会(同年10月18日)が開かれた直後であった。
ところが,日本政府の見解は経済界とは異なった。2017年11月22日の日本経済新聞電子版は,日本の経済界は「一帯一路」で日本の高い技術力を生かして商機を探っているが,経済産業省は安全保障に関わる港湾や鉄道事業には警戒するように経済界に助言したと伝えた。同じ日経電子版は2017年12月31日に,日本政府が「一帯一路」に協力し,個別事業ごとに判断し,中国企業と共同事業を手掛ける日本の民間企業を支援すると伝えた。この件について韓国の聯合ニュースは同じく12月31日に,「日本,中国の一帯一路に協力,新しい中日関係を模索する」というタイトルで報道し,日本は経済協力を通じて安倍総理の中国訪問と習主席の日本訪問を導き出すのが狙いであると分析している。
経済が政治との相互関係性を切り離すことは難しいことである。経済を通じた中日関係の大枠として,一帯一路の構想を日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)等と連関させることが肝要である。一帯一路および複数国間のFTAによって物流や人の移動などにかかる広義の貿易コストを低減させ,それを通じて,大国や大都市のみならず,一帯一路およびFTAに参加する諸国内で中小規模の都市も発展しうる「分散型」経済網を構築していくことが鍵である。実感を伴った経済的利益(地元スーパーでの品ぞろえの豊富さや割安な価格など)を創出することが,中国と近隣諸国との政治面の関係性にも好転をもたらすであろう。
第2次安倍政権は2012年12月に発足し,今年2018年で6年目となる。習近平氏も2012年11月の中国共産党第十八回全国代表大会後に中央委員会総書記と党中央軍事委員会主席に,2013年3月に国家主席と国家中央軍事委員会主席に選ばれ,党・国家・軍のトップになっている。しかしこの5年間,安倍首相と習主席との首脳会談は6回開かれたのみである。初めての首脳会談は2014年11月10日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)中の北京で開かれ,6回目は2017年11月11日にAPEC首脳会議中のベトナムで行われた。首脳会談の回数が少ない中,日中関係が好ましい状態だという見解は少ない。交渉中の日中韓FTAは進展が遅いとの指摘ばかりが目立つ。そのような中で,日中韓首脳会談に対する期待は高い。2018年1月27日,訪中した河野太郎外相は中国の王毅外相と会談し,日本で日中韓首脳会議の早期開催を目指すと言った。一帯一路,そして日中韓FTA,RCEPなど東アジアの経済統合に対する期待は今後さらに高くなるであろう。
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