世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1012
世界経済評論IMPACT No.1012

日本社会の自立への道:(その1)

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役社長)

2018.02.19

 21世紀に入り世界の経済社会はこれまでにない分裂現象を起こしている。それは経済の衰退,過大な所得格差に現れ,そのためにマネーゲームが社会を錯乱し,国民大衆,民衆の生活が苦しくなり,明日への希望が持てなくなった。特に若者がそれに苦しんでいる。これがテロ,難民の問題を引き起こしている。同時にこうした社会の分裂現象のなかで,富の収奪,詐欺的行為が起こるものである。それも国際的なベースで起こっている。

 20世紀の初めから「アメリカンドリーム」を世界に示してきたアメリカも今や衰退して来ている。アメリカの動きに振り回されてきた日本社会もますます衰退し,今では,多くを望まないで,下山の境地に入るべきだとする識者が出てきている。これは大変危険なことである。また世界の詐欺的行為の横行で,日本の富がどんどん収奪されている。しかし日本はそれに気付いていないのは悲しいことだ。

 トランプ・アメリカも混乱し,ますます分裂の道に進んでいる。しかしアメリカには建国以来の取るべき「国のかたちという強い考えと意志」があり,基本的な哲学をもっている。いずれ正しいものにアメリカは戻るであろう。だが日本は,アメリカの後追いできたために,自力で新しい方向を見つける力を失っているようだ。

 ここで日本社会の本当の自立をどのように創り上げるかを真剣に考えなければならない。戦後70年日本は日米安保のために,自分で国防を考えなくても安泰だとしてきたが,今やそうでないことが日本人にも分かってきた。重要なことは経済力をベースにした「国防力」であり,「軍備戦闘力」ではない。これまでのアメリカの建国と黄金時代の国のかたちをたどりながら,これからの日本の21世紀の国家の進むべき道を探りたい。

(1)アメリカの国のかたち

 アメリカはイノベーションにより国は発展すると考える。この考えは,旧約聖書のアブラハム,ヨセフの活動の精神を引いている。そしてイノベーションを阻害するものを徹底的に排除する。アメリカ憲法も,単なる平和ではなく,国防を前面に出してはいるが,アメリカ国民大衆の富の増進とその防衛を目指している。イノベーションはエスタブリッシュメントではなく,名もない人,新しい起業家によりなされるものであるとしている。アメリカ独立宣言,アメリカ憲法,独占禁止法,アメリカの基本的な法制にその精神が記されている。

 資本主義経済活動では,なにもしなければ,核分裂的な詐欺的行為が起こり,バブルの崩壊に陥る。詐欺的行為には,二つの要素が含まれている。一つは,本当の詐欺,犯罪であり,これは民事の事件であっても,その時点の国の法律に背くもの,文化に背くものは本当に国の発展,そして国力にとって害悪をもたらすものととらえる。これは徹底的に排除する。もう一つは,これからのイノベーションの動きとなるものであるが,社会の発展ということは上部構造としての制度を変えながら成し遂げるものである。大きなイノベーションは,その時点の社会の制度,法に触れるもので,詐欺的な行為と映る。逆に言えば,その時点での制度,法律に大きく抵触すればするほど偉大なイノベーションであるとも言える。従ってこのような「詐欺的行為に見える」イノベーションを大切にし,それを本当のイノベーションとして実現させる。これを国としてどのように成し遂げるかである。ここにセーフハーバーのコンセプトがある(ある基準を満たしておれば,新しい商品を市場に出し,最終的にその商品が市場に合わず,中止しても,それ以前の商品に対しての責任は問われない)。

 アメリカでは,民事訴訟に対する国家の介入がある。民間のいろいろの詐欺事件,犯罪で国民の富が持ち去られて,国としての富を損なうことが起こる。詐欺者,犯罪者が他人の富を争奪して逃げると,被害者が損失をこうむり,これが最終的には国家の力の減退になるとアメリカでは認識している。そのためには,詐欺者・犯罪者と被害者の間の民間ベースで「決済」をさせること,つまり被害を詐欺者・犯罪者から救済させることである。これは民事だけに任せることでは達成できない。それにはのちに述べる詐欺や犯罪の追求,排除の強力な執行機関をもって,民事訴訟に国家が介入することである。アメリカは「三倍賠償」という律法を持っている。

 資本主義国家産業活動の「制御装置」という重要なものがある。資本主義経済活動は,そのまま放任するとバブルになり,詐欺が起こり,犯罪が起こり,国家は混乱し,国家は衰退する。そのために制御装置,拮抗力が必要である。フリードマンが言っていたような自由主義では成り立たない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1012.html)

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