世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.997
世界経済評論IMPACT No.997

東京オリンピックのテロ対策に学ぶ:(その2)

吉川圭一

(Global Issues Institute(株) 代表取締役CEO)

2018.01.29

政府組織に問題?

 日本政府の危機管理やテロ対策に関する組織図が,あいまいなのも問題です。日本における危機管理は,主として内閣官房が行っていて,それは首相官邸直轄なので間違いではない。長年に渡る組織としてのノウハウの蓄積もあり,スタッフも優秀です。

 しかし内閣官房は,本来は縦割り組織の連絡所的な存在で,スタッフも各省庁から数年ほど出向で来ている人が多く,そのため本籍の省益や,その組織独特の思考から逃れるのは難しい。これで縦割り組織の利害関係の調整が重要な危機管理に対処できるでしょうか?

 危機発生時に内閣官房−首相官邸が中心になるのは当然です。しかし危機管理の最も重要な点は,むしろ平時の事前準備なのです。平時から各省庁の利害等を超え想定外の事態が起きた時の省庁間調整をしておく。図上であれ実演であれ,訓練を繰り返す。必要なら各省庁や自治体の予算編成や補助金付与等の企画にも影響を与える。

 この役割は自然災害に関する限り内閣府防災担当の役割の筈です。しかし2000年の省庁再編で縦割り弊害除去のために作られた内閣府は軌道に乗っていません。それは軌道に乗らないから人材が集まらない,人材が集まらないから軌道に乗らない悪循環に陥っているためなのです。

 そこで今回のオリンピック警備準備も内閣官房中心で行われている。今回は仕方ないとして今後も同じで良いのでしょうか?

 例えば2017年12月11日発表の要綱で,最も大きな決定とされる「国際テロ対策等情報共有センター」(仮称)は,11の関係省庁から職員が集まり,テロ関係の情報を共有,分析するとされていますが,やはり内閣官房内に既存の「国際テロ情報集約(幹事会)室」内部に置かれる予定です。これでは省庁縦割りの影響を十分には排除できないのではないでしょうか?

 あと2年半では時間的余裕もなく,既存の内閣官房中心のシステムを活用するしかないでしょう。しかし本当に省庁縦割りから解放され,省庁横断的なテロ対策を実現するには,東京オリンピックの後でも,いま内閣官房にあるテロ対策の機能や組織を,内閣府に移すべきではないでしょうか? そうすれば横からの調整で縦割りの弊害の除去も容易になります。

 そこで今回オリンピック警備に関係した人々を,各省庁から内閣府に集め,テロ対策本部のようなものを内閣府に作っては,どうでしょうか? そうすれば内閣府の人材も充実し行革にも逆行しない。こうして横からの調整で縦割り省庁の政策や予算等が統一されれば,テロ対策関係機器等の政府への売り込みも円滑になり,やはり関係する企業に良い影響が出ると思われます。

ネット上のテロ対策

 ネット上のテロ対策にも日本政府は力を入れ始めています。

 今のテロは国際組織によるものより,そのような組織の活動をネットで見て影響された個人が,ネットで手口を学んで起こすーいわゆる一匹狼型テロが多い。そこで米英の政府は,ネット上で誰が,どのような検索を行い,どのような発言をしているかを知ることで,テロの事前予防を行うため,GoogleやFecebookにデータの提供を求めています。しかし各社とも顧客情報保護を理由に消極的な上,IDやパスワードが分からなければ,データを提供してもらっても,その中にある関係者のビッグ・データまでは分からないらしいのです。トランプ政権の入国禁止政策も“SNS等のパスワードやIDを教えれば入国を許す”という側面もあるのです。

 日本では,政府機関と民間の関係が良好で,技術も進んでいます。既にネット上のロボットを使った情報収集で,テロに関係しそうなサイト等の情報も集め,その関係者のビッグ・データ的なものも作ろうとしています。

 また個人情報保護法の改正によって各企業は自分の顧客のビッグ・データを,固有名詞が特定されない形にすれば,他社に売却したりして良いことになりました。しかし後日に何かあった時のために,どの企業に,どのデータを渡したかの記録を保全する義務はあります。この制度も更なる法改正を行えば,テロ関係者と思われる人物を,ビッグ・データから探し出すことにも使えると思われます

 このような官民一体のネット上の情報監視やビッグ・データの共有等も今までにないビジネス・チャンスを産む可能性が低くないと思われます。詳しくは「『2020年東京オリンピック・パラリンピックは,テロ対策のレガシーになるか?』(2018年1月刊,近代消防社)をご覧ください。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article997.html)

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