世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.941

米国トランプ政権とアメリカ・ファーストのアジアへの影響

石戸 光

(千葉大学法政経学部/グローバル関係融合研究センター 教授)

2017.10.30

1.トランプ新政権の米国が2017年1月にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を表明

 トランプ新政権の米国が2017年1月にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を表明した。いわゆる保護主義の台頭である。このことのアジアへの影響としては,①TPPに代わり,拡大を続ける中国の一帯一路とAIIB(アジアインフラ投資銀行)が注目点になったこと,がまず挙げられる。また②ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国が分断されている。例えばベトナムとマレーシアは,TPPに入っていない中国への配慮もありTPP11(米国抜きのTPP)に慎重である。タイおよびフィリピンはもともとTPPに入っていなかったので,TPPが不確実となり「安心」したが,これからどうなるか「不安」を抱えている。そして③アジアの地域統合は結局どこへいくのか,不透明感が増している。TPPに代わり,米国抜きで中国が参加するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)が中心になるのかどうか,という点もアジアにとり重要な政策イシューである。さらに④日本は米国と二国間自由貿易協定の可能性が指摘されており,日本はTPP交渉の時と同様に緊張感を持って米国トランプ政権の動向を見すえている。

2.保護貿易主義(重商主義)と自由貿易主義をめぐってアジアが「分断」

 TPPへの参加の是非を巡り,日本を含めたアジアで「分断」が生じている。そしてその根底には,政治的なポピュリズムに支えられた保護貿易主義と,自由貿易主義との対立がみられる。ここで保護貿易主義に関連した「お店のたとえ」を考えてみる。お店に行って買い物をすると,いつもお金がなくなる。したがって,お店は悪いものである。これが基本的に保護貿易主義の立場のようである。これに対して自由貿易主義は,アダム・スミス(経済学の父)が主張するとおり,お店からの購入(輸入)は豊かな商品・サービスにより消費者に利益(すなわち「国富」)をもたらす,と考える。これら2つの考え方を巡ってアジア諸国は「分断」の状況になっている。もちろん,お店からの購入(輸入)によって自分の仕事が長期的に減る状況は避けたい。そのため,自国生産を優先したい(自国ファースト)がアメリカをはじめグローバルな経済統合のやや近視眼的なスタンスによる交渉を加速させつつある。

 自由貿易主義は,「輸出も輸入も良いこと(ある前提が整うならば)」と考えている。「ある前提」とは,1つの産業(例えば農業)から別の産業(例えば工業・サービス業)へスムーズに転職できること。すなわち,アダム・スミスの主張した通り,長期的にはやはり分業(division of labour)の促進こそが国を富ませる基本的な原理である。

3.貿易を通じた経済発展の様子

 貿易を通じた経済発展の様子は以下の通りとなる。日本のこれまでの経済成長やアベノミクスもこの式で説明できる。Y=C+I+G+X−M すなわち GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入 の大きさが左辺も右辺もバランスを取りながら拡大していくこと。輸出(X)と輸入(M)の双方がバランスを取りながら拡大することが,やはり経済発展にとり望ましいのである。今後の焦点として,保護主義による分断を避けながらアジア諸国がいかに相互依存を高めていくかが政策課題となろう。近い将来の「予測」として,2017年はASEAN設立50周年,またASEANのメンバーとしてのベトナムがAPEC(アジア太平洋経済協力)議長でもあるため,TPPとRCEPをAPECの提唱するFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想とどう結びつけるかという議論が盛り上がる可能性が非常に高い。そして日本の役割として,TPPは元々「開かれた地域主義」APECから生まれ,そのAPECを日本が主導してきた(米国は対アジア政策上,受け身的に参加)ことを忘れないことである。APECを通じたFTAAPにより開かれた経済関係を構築していくにあたって,アジアおよび太平洋地域の一員である日本の役割は大きい。

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