世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ベトナム中部都市ダナンの可能性
(青山学院大学経済学部 教授)
2017.09.04
今年11月のAPEC開催に向け,ベトナム中部ダナン市の目抜き通りにはホスト都市をアピールするアーチやカウントダウン電光掲示が見かけられる。
筆者はここ10年余り,メコン地域を研究対象として頻繁に現地を訪れている。この8月,ベトナム北中部を2週間,駆け足で出張した際,ダナンについて認識を新たにした点を述べてみたい。
南北に細長いベトナムはその地理的・歴史的事情もあり,北部と南部は別々の経済圏として捉えたほうがよい。一方,中部で孤立している感のあるダナン経済圏は企業進出先としてさほど注目を浴びてこなかった。ダナンは「東西経済回廊」の起点として人口に膾炙することは多いが,産業集積地としての経済規模は見劣りする。その反面,ユニークな発展モデルを提供するのではないかと今回感じた。すなわち,後発都市として,工業化キャッチアップモデルではなく,いわば「リバブル国際都市」のモデルとなる可能性である。
ダナンには外国人来訪者を惹きつける条件が,日本のたいていの地方都市よりはるかに多く揃っていると感じる。第1に,空港アクセスの至便さである。ダナン国際空港は市街中心部から西へわずか3kmの距離で,むしろ空港が市のど真ん中にある感じだ。LCC時代にこの空路アクセスは貴重な資源だ。今回の滞在で驚いたのは韓国人観光客の洪水だった。ダナンと仁川空港の間には1日10便以上の直行便が飛んでいるようだ。ビーチはもとより,海鮮レストラン,テーマパークなどで韓国人観光客を避けることは不可能だ。市街には韓国語の看板のスーパーやコンビニも見かける。ハワイのワイキキが一時期「日本人村」化していたのを彷彿とさせる。それだけ直行便の威力はすごい。
第2に,多様な観光資源の存在がある。ダナン市内はビーチ,海鮮料理街,さらにはハン川沿いの多くの橋に電飾をこらした夜景があり,郊外に足を延ばせば車で30〜90分圏内にフエ,ミーソン遺跡という世界遺産2カ所,プチ倉敷のようなホイアン,さらには長さ5km超のロープウェイから絶景が望めるバーナーヒルズ・リゾートなどがある。もう1つ,日本のODAでダナンからフエへの途中に建設されたハイヴァン・トンネルによって促進された観光スポットが,ハイヴァン峠とその先のランコー・ビーチだ。トンネルの開通によって商用車やトラックの交通がトンネルに転換されたおかげで,九十九折のハイヴァン登山道とその頂上の展望所が格好のドライブコースになった。ランコー・ビーチは現在のところ,地元客向けの静かなビーチで,ホテルやレストランの集積はないが,見渡す限り人がいないという解放感を味わうならこちらのほうが気持ちいい。ハイヴァン・トンネルの開通は,「東西経済回廊」の物流を促進するインフラとしての側面ももちろんあるが,短期的には,フエやこうした観光資源へのアクセスを改善した経済効果も重要ではないか。
第3に,英語を使いこなせるサービス業やソフトウェア業界の若手人材の存在がある。絶対規模ではハノイやホーチミン市にはかなわないが,ダナン工科大出身などの地元出身者に加え,こうした産業分野での雇用と比較的ゆったりした生活環境に惹かれて他地域からも集まっているようだ。大規模な製造企業の誘致には不利な反面,中小規模の製造業や非製造業の集積にダナンは利点が多いと考えられる。例えば市街の南7kmほどの地点に,ベトナム地場IT大手のFPTグループがFPT Complexという工業団地を用意し,その近くに観光専門大学が誘致されていたりする。
第4に,行政の近代的で開放的なイメージが挙げられるかもしれない。ハン川北西岸に位置する行政の中心地でひときわ目立つ楕円たまご型の斬新なデザインの高層ビルがダナン市庁舎だ。その18階にダナン市投資促進支援委員会があり,日本企業誘致を担当するジャパンデスクがある。筆者の訪問時は日本人インターンの交代時期で,豪州留学帰りの若いベトナム人女性職員が対応してくれた。17時の勤務時間を過ぎても熱心に対応してくれた。もらった名刺には “Your Investment, Our Mission”とあり,資料の副題は “Invest in Da Nang: worth living, worth investing”と題している。なかなかセンスを感じさせる。
以上,ダナン5泊での印象をまとめると,陸路連結性よりも空路連結性のスピード感がはるかに効いており,今後10年ほどは空路アクセス拡大と都市経済圏拡大のバランスを崩さないように開発を進めていくことが肝要だと思う。
ホイアン〜ダナン間約26kmの海岸側のローカル道路は終始片側2車線,信号が一切なく,平坦で一本道の素晴らしい道路で,わずか40分で2都市を結ぶ。その道路の海岸側は終始,ホテル,リゾート,商業施設の建設広告の柵が続く。土地造成に着手すらしていない土地もすべてどこかの開発業者の手に渡っているということだろう。これらの開発がすべて実現すれば,30km近くにおよぶ一大ビーチリゾート都市に変身することになる。ただしそのための必要条件は,第1に,これらリゾート施設を埋め尽くすほどの観光客の需要が内外からやってくること,第2の条件はその需要をさばくために輸送インフラ,とくに空港のキャパシティが拡大することだ。今見る限り,リゾート・バブルにしか見えないが,ダナン市街の道路は,ハノイやホーチミンの中心部と比べ広くて整然としおり,現在の交通状況が悪化しないまま空路インフラを拡充することができれば,リゾート・バブル崩壊を避けられる可能性はある。東西経済回廊経由のラオス・タイとの経済統合はまだしばらく開花しそうにない印象だが,アクセスが至便な空港の収容能力を伸ばしていけば,20年後には巨大リゾート都市に大化けするポテンシャルはありそうだ。
果たしてダナンが「リバブル国際都市」の新モデルとなりえるか,ご関心の向きは,直行便で飛び,ご確認いただきたい。
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