世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
シェアリング・エコノミー再考
((株)ベイサンド・ジャパン 代表)
2017.08.21
8月9日から13日まで久しぶりにアメリカに出張しました。今回はSan Diegoのハイテクベンチャー企業の訪問です。普通ならアメリカ出張ではレンタカーを借り,広いハイウェイをドライブするのが私の楽しみの一つでしたが,今回は相手企業や友達がホテルに迎えに来てくれ,あちこち移動しました。国際免許証も一応用意していきましたが,使わずじまいでした。
UBER
友人がSan Joseから仕事の関係で参加し,彼らはレンタカーを借りるのではなくUBERを使い,それに乗せてもらいました。アメリカの人は,国内の出張では,UBERが出てきて以来,殆どレンタカーを使うことを辞めているようだ。8回ぐらいその人たちのアレンジするUBERに同乗しましたが,とても効率的で,しかもタクシーよりも安いようです。
8回のうち5回が女性のドライバーのUBERで,会社で働きながら出社前か,4時ごろ退社してから,夕食までUBERで稼ぐのだそうです。
高価なBMWをもった裕福な男性もUBERで,趣味と実益を楽しんでいるようです。ある人はゴルフを楽しむためにこれで稼いでいるのだということでした。
驚いたことは,スマートフォンによりUBERで車を頼むと,殆ど瞬間的に車から返事が来て,料金も確定して,3分から10分で来てくれます。支払いもすべてネットとクレジットカードで行われ,目的地に着き下車するときも,支払いの手続きもなく,極めて簡単でした。向かう道もナビで示され,車が迷うことは殆どありません。かつて1962年から1981年までは,頻繁にアメリカ出張したときは移動はタクシーか,相手の企業から迎えに来てもらえるように交渉しなければならず,大変苦労しました。1981年にアメリカの事務所を開設し,運転免許を取ってからは,老いらくの恋で自動車運転が好きになり,レンタカーでアメリカ中を走り回りました。
車での移動の状況によりますが,コストはUBERの方がはるかに安いし,車自体の稼働率という点ではマイカーであるレンタカーと比べると,UBERがはるかに資源の使用効率では優れています。これまではマイカーも稼働率という点では大変無駄なことをしていたことになります。UBERの車の中では運転手と楽しい会話が弾み,また必要であれば顧客はパソコンで仕事もできます。
UBERの陰で何が起こっているか
ところがUBERのために,当たり前のことですが,タクシー業界は大変な痛手を受けているようです。ショッピングモールに友人がUBERで連れて行ってくれた時も,タクシーが客を探すのに大変苦労しているのを見ましたし,恐らくレンタカーの会社も売り上げが減っているのでしょう。その大元の自動車会社も新車販売が低下して,アメリカ経済の不振の大きな原因になり始めている。こうなると広いアメリカでは車が無ければ足を奪われたも同然と思っていたが,今や車を持たない人も出てきて,一家に2台が,1台になるであろう。
もう一つ気付いたことは,ショッピングモールに本屋がなくなったことだ。ある本を買いたいと探したが本屋がなかった。本屋として残っているのはBarnes & Nobleぐらいだと言う,殆どアマゾンにやられている。
シェアリング・エコノミーの功罪
UBERの運転手の小遣い稼ぎとタクシー運転手の収入減そして失業を,国民経済全体から見てどうなのかを考えてみなければならない。
UBERで,設備投資としての自動車の稼働率は確かに向上するが,働いてそれで生活する大衆全体でみると,大衆の所得の,富の向上になるのか,またこれが経済全体を拡大することになるのかきちんと見極める必要がある。
もう一つUBERの運転手の心配は,このビジネスのシステムで,運転手が常にグーグルのGPSを通じてどこを走っているかが監視されていることである。ちょっと浮気をしてもすぐばれることになり,プライバシーが犯されることになる。もっと問題なことは,アメリカの経済の衰退で一般大衆の生活が困窮しているようだ。丁度バージニアで人種差別をめぐる暴動が起こったが,これには白人労働者層の貧困が根にあるので,複雑な問題となっている。主婦や高齢者がUBERで稼がなくてはならないというアメリカ経済の問題がその背景にあるのだ。
モノづくりUBER
今こうしたことが「空き部屋」でも起こりつつある。ホームシェアリングであるAIRBNBという会社もある。これで面白いのは,単に宿泊先を提供するのではなく,人の出会いを通じてここを人生の「体験プラットフォーム」にしようとしていることだ。こうした動きがこれから出てくるのだろう。アマゾンもそうだが,こうした企業は新しいビジネスを実験しているのだ。日本はこうした動きを学ばなければならない。
San Diego で思いついたことだが,一つアイディアが湧いてきた。今日本ではモノづくりが少し下火になっており,稼働していない工場,機械が沢山ある。これをUBERのコンセプトで結びつけ,それを使いたい人,あるは製品加工したい人につなげて,稼働率を上げることもビジネスになりそうである。若かったらこのビジネスを立ち上げたいところであるが,これは新しいビジネスで,機械,工場を登録しネットで繋いで,誰でも利用できるようなり,経済の発展につながる。日本でも稼働していない工場,機械がたくさん存在するが,これは生産が海外に移動したとか,後継者がいない中小企業で機械,工場の空きが拡大している。
ものを所有しない経済
ここで「ものを所有しない経済」という「シェアリング・エコノミーの本質」を確かめる必要がある。資本主義経済が国民大衆を含めて旨く行くためには,少し無駄であっても国民大衆に適切な仕事の場を与え,所得を得させ,それで商品を購入してもらい,経済を活性化することであって,コストを下げ生産性を上げるだけでは,日本のようにデフレが続き,ますます国民は貧しくなる。シェアエコノミーが単なるコストダウンに終わるのであれば,望ましいものではない。
本当に日本経済の再生を望むなら,アベノミクスの看板を下ろし,本当の産業のイノベーションを起こさなければならない。今度訪問したSan Diegoの会社は,そのイノベーションの一つを進めている。
シェアリング・エコノミーの更なる展開
しかし,シェアリング・エコノミーは当分進むであろう。「データ,知識のシェアリング」という意味ではGoogle検索はそうである。クラウドコンピュータもそうである。
これまでの高度大衆消費社会では「専門家商品」から「大衆商品」にシフトした。個人による所有を前提にしたものである。ミシン,自動車ModelT,マイカー,DIY商品,パソコン,ウオークマン,スマートフォンなど。これはディスラプティブイノベーションである。
しかし今やその逆流として,所有をしない「シェアー商品」が出てきている。
日本でもかつて貸衣装,古着屋,貸本屋,質屋などがあった。だがこうした新しい動きは一つのものに収斂するのではなく,弁証法的発展として,これまでのものが次々に否定され,新しいものに変化するものである。これがイノベーションである。日本はこうした世界の動きに旨く乗れていない。当分はシェアリング・エコノミーが拡大するのだろう。しかしどの場合でも国民大衆に適切な職場を用意することである。
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