世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.879

中国「自由貿易試験区」を〈モメンタム〉とした一帯一路建設

朽木昭文

(日本大学生物資源科学部 教授)

2017.07.24

 世界の有力企業フォーチュン500社(売上高)の数は,1995年に日本149社であった。2015年にアメリカ128社で変わらず,日本53社と3分の1となり,中国が日本の約2倍の98社となった。これからのイノベーション(革新)を左右するといわれるスマート・スピーカーの開発は,グーグル,アマゾン,アップルが先行している。そして,中国の新環境車から日本が得意としてきたハイブリッド車が除外された。このように中国企業に比べて日本企業の対応が進んでいない点が顕著である。

 一方で,労働集約型産業が成熟し,成長が進まないと日本で錯覚されている中国の成長戦略は着々と進行している。成長戦略の〈モメンタム〉は①「自由貿易試験区」である。この試験区を〈モメンタム〉に改革開放政策により外国直接投資を活用し,全国に展開する。また,②「一帯一路」建設により国内だけではなく,アジアからヨーロッパ・アフリカまでの一体の開発を進める。更に,国内ではイノベーションを最重視し,9重点分野のうちで③「産業構造の転換・高度化」により「中所得国の罠」からの脱出を図る。この点を本稿で説明する。

 2017年5月に北京で開催された「一帯一路」国際協力サミットフォーラムに自民党の二階俊博幹事長が出席し,演説し,日本の対応が大転換した。

1.自由貿易試験区

 中国の成長の起点の1つが自由貿易試験区である。2013年に上海に初めての自由貿易が開設された。2015年には天津,広東,福建に3大自由貿易試験区が開設された。

 中国国務院が2017年4月4日にその改革開放全面深化プランを発表した。そのプランによると,上海自由貿易区は「3区1堡」の新目標である。これは,開放・革新一体型総合改革試験区,開放型経済体系リスク・ストレス測定区,政府ガバナンス能力向上先行区の3区を建設することにより「一帯一路」建設に貢献する。

 この3区は,①上海の国際経済,金融,貿易,海運センターづくりや②「イノベーション・センター」づくりと連動する。また,1堡は,③橋頭堡として「一帯一路」建設の国家戦略に寄与する。そして,そのプランに基づき,上海に洋山保税港区と上海浦東空港総合保税区などの税関特殊監督管理区域内に「自由貿易港区」を設置する。

 2017年に第3次の自由貿易試験区の総合プランを発表した。それは,遼寧,浙江,河南,湖北,重慶,四川,陜西の7つの自由貿易試験区である。そのプランが提起したのは,上海でこれまで実施してきた経験を踏まえ,自由貿易試験区を改革・開放の手本とし,イノベーション発展の先行者とすることである。自由貿易試験区が,集積し,全国にモデルを示し,けん引し,寄与する積極的役割を果たす。

 7つの自由貿易試験区のそれぞれについて説明すると,浙江自由貿易試験区は,東部地区の重要な海上開放モデル地区,国際大口商品貿易自由化先導地区,国際的な影響力を備えた資源配分基地を目指す。この試験区は「海のシルクロード」に寄与する。

 重慶自由貿易試験区の最大の特徴は陸上貿易ルールを作り,遼寧自由貿易試験区と共に「陸のシルクロード」に寄与する。河南省鄭州は「1つのポイントが3つの大陸をつなぎ,1つのラインが欧米を貫く」ことを実現する。湖北自由貿易区は戦略的新興産業とハイテク産業集中地区を重点的に構築する。四川自由貿易試験区は内陸開放型経済の新しい高地を目指す。陜西自由貿易区の設立は地理的優位性を生かし,一帯一路沿線国と経済・貿易協力でその特色を作る。

 こうして第3次自由貿易試験区は,東北,華東,華中,西北,西南の各地区に及び,全国の発展を総合的に後押し,一帯一路建設と接続するモメンタムとなる。

2.新常態

 新常態とは,「中国経済の発展は新常態の下で速度の変化,構造の最適化,運動エネルギーの転換という特徴であり,安定の中で好転に向かう傾向が強まっている」と国家発展改革委員会副主任が表明した(新華社2017年4月26日)。

 李克強首相は,「全国を挙げて安定の中で前進を図る全般的基調を堅持し,革新,協調,グリーン,開放,共有の新発展理念を深く貫き,供給サイドの構造改革を推進し,経済構造のタイプの転換と高度化を促す」と述べた(新華社4月18日)。つまり,行政簡素化,権限委譲,規制緩和と管理の結合,サービスの最適化,減税と費用引き下げと革新(イノベーション)による発展戦略を実施する。こうして「産業構造の転換・高度化」を推進する。2017年の経済目標は,GDP成長率がそれまでの10%台から落ちたとはいえ6%台である。「中所得国の罠」からの脱出を目指す。

3.一帯一路建設

 一帯一路建設は,2013年に打ち出され,陸のシルクロードと海のシルクロードの2つからなる。目的は,ウィンウィンのグローバル・バリューチェーンの形成を目的とする。このために連結性(コネクティビティー)を強化する。その手段の1つがインフラの建設である。

 陸のシルクロードは3大方向がある。第1は中国西北,東北から中央アジア,ロシアを経て欧州,バルト海に至るもの,第2は中国西北から中央アジア,西アジアを経て,ペルシャ湾,地中海に至るもの,第3は中国西南からインドシナ半島を経てインド洋に至るものである。また,海のシルクロードは2大方向がある。第1は中国の沿海工から南中国海を通り,マラッカ海峡を経てインド洋に至り,欧州へ延伸するもの,第2は中国の沿海工から南中国海を通り,南太平洋へ延伸するものである。

 2017年5月段階で中国は,39の国や国際機関と46の共同建設協力取り決めに調印した。国際機関は,国連開発計画(UNDP),アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP),世界保健機関(WTO)である。

 中国の銀行業界は一帯一路建設に融資している。国家開発銀行は残高が1,100億元以上である。輸出入銀行は契約金額が7,000億元以上である。中国工商銀行は融資承認額が674億ドルである。中国銀行は与信額が680億ドルである(新華社2017年5月11日)。資金需要は,国際的な多国間,2国間開発金融機関との連携と同時に,アジアインフラ投資銀行(AIIB)とシルクロード基金が協力する。

 一帯一路建設の持続可能な発展に必要な要素が3つある。第1に企業の積極的な参加,第2にグリーン(環境保全型)発展方式,第3に協力参加各国の一般国民を含め実益を得る共有(シェア)の発展である。

 中国国務院発展研究センター対外経済研究部の2017年3月28日の発表によれば,2016年9月までの3年間の成果として,沿線20カ国余りに56カ所の海外経済協力区と産業パークを建設し,これまでに1,000社余りの中国企業が進出し,生産額が509億ドルであった。このように「一帯一路」建設は進行している。

4.アジアインフラ投資銀行(AIIB)

 AIIBの金立群初代総裁は,2017年4月24日の米国シンクタンク「大西洋評議会」の講演でAIIBが「完結,廉潔,清潔」のコア価値観を堅持し,実際の行動と高い質の融資プロジェクトを通じて外部の信頼を得ていくと指摘した。AIIBは中国が主導する銀行ではなく,インフラ投資に専念する新しいタイプの多国間開発銀行であると認識する。国籍を問わずに世界中から職員を募集し,グローバルな資金調達で,いかなる国の企業も参加できる公開競争入札である。

 2017年3月の時点で13カ国・地域が加わり,合計で70の加盟メンバーになった。さらにカナダが加わり,G7の中で未加盟はアメリカと日本のみとなった。AIIBが「一帯一路」建設に必要とされるインフラ投資で協力する。

5.「産業構造の転換・高度化」

 2017年の第12期全国人民代表大会第5回会議で発表された9重点分野は,過剰生産能力解消を含む「三去一降一補」,改革開放,農業発展,対外開放,環境,社会建設,政府自身の建設のほかに,「産業構造の転換・高度化」とサービス産業の育成として教育,医療,観光産業の発展に力を入れる。

 中国科学院の11大プロジェクトのうちで,「産業構造の転換・高度化」の技術の1つがIoT(モノとインターネットの接続)である。この技術は,都市管理,生産作業,住民生活の分野に活用され,特に都市の「スマート」化への応用が期待されている。スマート都市ソリューションプランやスマートパーク建設が研究開発され,普及されている。このような点で日中の協力が中国国際貿易促進委員会(CCPIT)でも期待されている(新華社4月11日)。

 消費に関して,「中国伝統工芸振興計画」を中国国務院弁公庁が発表した。これは,人々の消費の高度化におけるニーズを満たすため,伝統工芸が持つ文化的要素と工芸の理念を生かし,匠(たくみ)と有名ブランドを育て,伝統工芸が現代の生活の中で新たに広く生かすようにすることである(新華社3月24日)。

 要約として,中国政府は,経済成長の根底に「科学」進歩と「文化」の創造を置く。その進展に「自由貿易試験区」を〈モメンタム〉として,「一帯一路」建設を進める。今後も「自由貿易試験区」の動向から目を離せない。

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