世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
21世紀資本主義経済社会の知恵と戒律:日本の再生の道(その1)
(ベイサイト・ジャパン 代表取締役)
2017.05.22
(1)今日の世界経済情勢
世界はこの30年「長期経済停滞」に悩まされ,「民主主義・国家主権・グローバル化」のトリレマンに陥っていると言われている。特にグローバリゼーションの行き過ぎにより,世界的にあらゆる分野で経済格差,社会格差が生まれている。このことは難民,テロ,中東・ユーラシア紛争,そしてトランプ現象,イギリスのEU離脱,EUの崩壊の危機などに現れている。国のエリート達は,それに対して,国民大衆から「ノー」を突きつけられ,自信を失っている。特にアメリカのトランプ大統領の誕生,イギリスのEU離脱によるメイ首相の誕生は,国民中間層の所得格差,経済格差への国民大衆の反逆の表れである。不思議なことに,日本は「失われた30年」で経済不振に麻痺してしまい,茫然として,国民大衆のレジスタンスも起こらない。
こうした状況に対して,先進諸国は,異次元の金融緩和,財政出動をしたが一向に経済は改善しない。サブゼロ・プライムローンでものが買えない貧困層に金を貸し付けて物を買わせる「架空需要創出」によりなんとかしのいでいる。これには極めて大きな危険があることは承知しているが,それ以外に打つ手なしの状態になっているようだ。多くの大企業,産業が成長期を終え,成熟期,衰退期に入って,価格切り下げ競争に陥っている。イノベーションの衰退である。
アメリカ・トランプもEU離脱のメイ首相も,それぞれの国の経済の成長と国民中間層の豊かさをもたらさなければ,再び国民大衆から反逆を受けることになる。
(2)何が起こったのか
この世界経済の長期停滞の原因は,1975年くらいから始まった「イノベーションの停滞」と「グローバリゼーションの行き過ぎ」によるものである。そしてアメリカを中心にして1980年ころから,一部のものが,新自由主義,資本の移動の自由のもとに,これまで構築してきた「資本・産業のエンジン」を制御する「装置」を骨抜きにして,「強欲」を解き放し,暴走したためである。これにより世界的に経済格差,所得格差が進み,生産された商品が売れず,価格切り下げ競争,リストラ,賃金引き下げという悪循環に陥っている。これが行き過ぎて世界経済を錯乱しているのだ。
実はグローバリゼーション化とその行き過の是正は19世紀にも起こったことである。しかしその時は極端な保護主義になり,世界大戦に繋がった。そこで「ブレトンウッズ体制という知恵」が生まれ,グローバル化をコントロールしながら,20世紀の資本主義経済が発展したのである。こうして1930年から1980年にかけての「資本・産業エンジンを制御する装置」が構築され,「アメリカ経済の黄金時代」をもたらした。しかし1980年以降,あるグループのものにより人為的にその「制御装置」が破壊された。これによるハイパーグロバリゼーションで,自己の利益を無限に追及して,詐欺的行為により周辺の富を収奪し,経済社会を混乱させ,大所得格差をもたらし,経済を停滞させて今日に至っている。資本主義経済の歴史は,飽くなき利益追求のバブルとその崩壊で恐慌・経済停滞の繰り返しであった。そろそろ人類はもう少し利口にならなければならない。
しかし案ずることはない。今日のアメリカを中心とする資本主義経済の問題を解決するには,破壊された「制御装置」を修復すればよいのだ。制御装置の破壊の具体的な手口がわかっているので,21世紀の資本主義経済社会に沿って修復・改革すれば,解決する筈である。
アメリカの黒人思想家,シェルビー・スティールも,1930年から1980年までのアメリカの資本主義は,白人中心の社会であったが,「個人が責任を負うこと,一生懸命に働くこと,一人ひとりが創意を発揮すること,より大きな喜びのために刹那的な満足は我慢すること,卓越性を追い求めること,競争は実績のみによって行われること,優れた業績をなしたものには名誉を与えること,等々。これらの原則は白人至上主義と長く共存していた」と言っている。こうしたアメリカ社会の倫理,道徳,行動が,1980年以降グローバル化で,壊されていき,今日のようにアメリカ経済社会が錯乱してきているのである。
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