世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.835

応用経営史と第1回世界経営史会

橘川武郎

(東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授)

2017.05.01

 2011年3月の東京電力,福島第一原子力発電所の事故以来,原子力・電力問題やエネルギー問題全般について,社会的に発言する機会が増加した。経営史を専攻する筆者がそのような行動を続けているのは,応用経営史という手法に立脚しているからである。

 応用経営史とは,何だろうか。

 一般的に言って,特定の産業や企業が直面する深刻な問題を根底的に解決しようとするときには,どんなに「立派な理念」や「正しい理論」を掲げても,それを,その産業や企業がおかれた歴史的文脈(コンテクスト)のなかにあてはめて適用しなければ,効果をあげることができない。また,問題解決のためには多大な活力を必要とするが,それが生み出される根拠となるのは,当該産業や当該企業が内包している発展のダイナミズムである。ただし,このダイナミズムは,多くの場合,潜在化しており,それを析出するためには,その産業や企業の長期間にわたる変遷を濃密に観察することから出発しなければならない。観察から出発して発展のダイナミズムを把握することができれば,それに準拠して問題解決に必要な活力を獲得する道筋がみえてくる,そしてさらには,その活力をコンテクストにあてはめ,適切な理念や理論と結びつけて,問題解決を現実化する道筋も展望しうる,……これが,応用経営史の考え方である。

 社会科学の諸分野の中で比較的新しい学問である経営史学は,1929年の世界大恐慌前後にアメリカで誕生したことからもわかるように,現実社会の動向とつねに密接な関係をもってきた。第2次世界大戦後の世界的規模での企業経営の発展に歩調を合わせて経営史学は世界各地に広がり,まずは先発工業化諸国で,そして最近では新興国で,経営史学会の設立があいついだ。わが国の経営史学会も,日本経済の高度成長のさなかであった1964年に設立された。今日の現実社会との関連についてみれば,2008年のリーマンショックを契機に発生した世界同時不況の影響が継続するなかで,資本主義のあり方そのものが問われるような状況が生じており,歴史的視点から現実社会に示唆を提供する経営史学への期待は高まっている。

 期待の高まりを反映して,各国・各地域で活動している経営史学会が連携し,世界大会を開催しようという機運が盛り上がり,2016年8月,ノルウェーのベルゲンで第1回世界経営史会議が行われた。この会議には,地元ヨーロッパのみならず,アジア,南北アメリカ,アフリカ,オセアニアの各国から300名を超す経営史家が集まり,大きな成功をおさめた。日本からの参加者も50名弱に及び,国別では最多であった。

 ノルウェーは,北海油田を擁する資源国である。出光興産をはじめいくつかの日本企業も,ノルウェーでエネルギー事業に携わっている。また,日本政府が2011年に鉱業法を全面的に改正した際に,ベンチマークとした国の一つがノルウェーであった。この法改正は,メタンハイドレート等のわが国の海洋資源が外国船の探査活動などに対して「無防備状態」になっていた状況を打破するため,鉱物の探査に関して許可制度を導入したものであったが,その際に参考にしたのはノルウェー等で実施されている法的枠組みであった。

 混迷を続ける日本のエネルギー問題を解決するうえでも,応用経営史の手法は有用な視座を与えてくれる。応用経営史への期待の高まりのなかで開かれたノルウェーでの第1回世界経営史会議の成功を受けて,我々日本人は,世界の幅広い知見のなかからエネルギー問題解決への手がかりを学びとらなければならない。

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