世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.807

韓国経済の本格回復を妨げ得るリスク

高安雄一

(大東文化大学 教授)

2017.03.06

 韓国社会はパククネ大統領のスキャンダルにより大きく揺れている。パククネ大統領は弾劾訴追され職務が停止されている。さらに大統領のスキャンダルは財閥にも飛び火し実質的な三星グループのトップであるイジェヨン三星電子副会長が逮捕・起訴された。つまり韓国では,国政や代表的な財閥経営の最高責任者が不在になる事態に陥っている。しかしこれらの出来事が韓国経済に与える影響は限定的であり,アメリカ経済と中国経済の動きによる影響と比較したら物の数ではない。OECDとWTOが共同で作成するTiVA(Trade in Value-Added)指標のうち,GDPに占める国外最終需要比率を見ると,最新の2011年の数値が33.4%であり,韓国で生産されたGDPの3分の1が海外で需要されている。なお日本は12.0%であるが,日本ですら輸出が景気の潮目が変わる原因になることが多いなど経済に与える影響が強いことを勘案すれば,韓国経済は主要輸出先の経済に左右されるといっても過言ではない。韓国の主要輸出先は,アメリカと中国で,最終的に需要される韓国で生産された付加価値の比率は,2011年でそれぞれ17.3%,19.1%である。

 さて韓国の潜在成長率は3.5%程度であるが,2012年に3%を切ってから2016年までの5年で3%以上成長したのは1年だけである。そして昨年の成長率も2.7%と2年連続で3%を切る水準にとどまった。成長率の動きから韓国経済は本格的な回復に至っていないことがわかるが,この要因として中国の景気後退を背景に輸出が振るわなかったことが挙げられる。GDP統計における輸出の増加率は,2015年は0.8%,2016年は1.4%と過去10年間の平均値である6.1%に遠く及んでいない。GDP統計の輸出は国別にブレークダウンできないので,通関統計の輸出額を見ると,中国では景気の停滞が続いたこともあり,対中国輸出額の伸び率は3年連続でマイナスを記録している。そしてこの影響を受け,韓国全体の輸出額も減少が続いている。

 しかし輸出にもようやく薄日が見え始めた。個人消費や設備投資を中心に中国の景気に回復の動きが出てきたことから,対中国輸出額の前年同月比は3カ月連続でプラスとなり,2017年1月には10%を超える増加を記録した。そして輸出額全体の伸び率も2017年1月には10%を超えた。この動きが続けば,韓国経済は本格的に回復し,3%成長への復帰も射程に入ってくる。しかし韓国経済の本格回復を妨げるリスクも存在する。ひとつは,中国経済が失速するリスクである。中国経済は大規模なインフラ投資といった政策効果により景気が下支えされており,金融政策も緩和基調で運営されてきた。しかしこの副作用として不動産価格の高騰や過剰債務といった構造問題が生じている。政府はこれら問題への対処を始めたがソフトランディングに失敗すれば急激な景気後退が起こり得る。またアメリカについては,トランプ大統領の経済政策に対する期待感もあり好調な景気が持続すると見られるが,金融政策の動きによっては景気回復の動きが弱まる可能性もある。

 今後も韓国社会の混乱は続くが,韓国経済は国内の混乱とは関係なく海外経済の動きで流れが決まる。パククネ大統領は,輸出主導の経済構造を変えることに意欲を示していたが,その具体策はなくこの状況は長期的に続くと考えられる。政治が混乱する韓国の救いは,アメリカ経済に加え,中国経済も回復し始めたことである。経済の本格回復を妨げるリスクが顕在化して政治のみならず経済まで混乱する事態が起こらないことが望まれる。

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