世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.800
世界経済評論IMPACT No.800

「農・食・観光クラスター」形成による地方創生:300万人を突破した京都の外国人宿泊観光客!

朽木昭文

(日本大学 教授)

2017.02.20

 京都の嵐山は,世界遺産の天龍寺などの寺で有名なところであるが,今はモンキー・マウンテンとして外国人観光客がサルを見に行く。日本にはフランスと並ぶそれを超える文化伝統がある。京都・先斗町(ぽんとちょう)は,昔は「お座敷小唄」という歌で有名であったが,今は歴史ある路地裏グルメの街に変わり,外国人観光客であふれている。伝統を守り,革新することに日本の突破口がある。その先にアジアとの地域統合が見える。

 「観光客5,000万人構想」は,2000年に宣言された。それは次の5つの要因からなった。「駅ビル」(①)の建設後,京都市長記者会見資料(2009)によれば,(1)6つの団体「プラットフォーム」(②)による「京都・花灯路」の定着,「京の冬の旅」・「京の夏の旅」の好調,(2)「文化」強化事業(③)として,外国人観光客の積極的な誘致,(3)修学旅行の誘致促進,(4)全国的な「京都ブーム」,欧米を中心とした「日本ブーム」である。

(1)「京都・花灯路」の定着:21世紀からはじまる京都の夜の新たな風物詩となることを目指して,2003年3月から東山地域において,「灯り」をテーマとする新たな観光資源の創出事業である『京都・花灯路』が始まりまった。京都観光の代表地である東山地区の道を5キロメートルにわたって露地行灯で結んだ。これが「東山・花灯路」である。この目的は,オフシーズンである冬の観光客の誘致策であり,観光客の平準化であった。この事業の特徴は,京都府,京都市,京都商工会議所,京都仏教界,教師観光協会,京都文化交流コンベンションビューローの6つの団体が一体となった取り組みであったことである。ここに,「プラットフォーム」の役割の重要性が示される。

 京都を代表する寺院・神社をはじめとする歴史的な文化遺産やまち並みなどを,日本情緒豊かな陰影のある露地行灯の灯りと花により思わず歩きたくなる,また華やぎのある路を演出した。2005年12月からは嵯峨・嵐山地域においても実施し,京都の風物詩として定着した。これが「嵐山・花灯路」である。

(2)外国人観光客の積極的な誘致:海外5カ所に設置している海外情報拠点を活用して,京都観光情報の発信と現地動向の把握による戦略的・効果的な誘致活動を推進した。また,日本政府が2003年に開始したビジット・ジャパン・キャンペーンとの積極的な連携とインターネットを活用した京都への誘致キャンペーン「Kyoto Winter Special」を実施した。2001年に38.4万人が2008年に93.7万人に増加した。

(3)修学旅行の誘致促進:全国学校訪問活動や,事前学習を支援する「京都・修学旅行アドバイザー事業」,修学旅行生用ホームページ「きょうと修学旅行ナビ」による最新情報の発信などにより修学旅行の誘致を促進した。

 駅ビルは,これまでの鉄道の沿線機能を集約できる。機能とは,「レストラン,ホテル,ショッピングモール,博物館・美術館」などである。「京都駅ビル」は,1993年に建設着工し,1997年9月にオープンした。2001年に京都駅ビルは,「ブルネル賞」建築部門奨励賞を受賞し,2002年に京都劇場をリニューアルオープンさせ,2003年に「京都拉麺小路」を開業した。2010年に京都総合観光案内書を開業させ,2016年に「京都駅南口駅前広場整備事業」が完成した。2002年には京都CATが廃止され,電車による連絡が中心となった。関西空港と京都駅の連絡は,関空特急はるかにより80分である。ただし,この改善は課題としてある。京都駅ビルは,地下街(専門店とレストランなど),伊勢丹百貨店,グランビアなどのホテル群,美術館,博物館からなる。

 2010年度以降も京都の文化事業は継続し,「未来・京都観光振興計画2010」に示される。2013年と2016年には「リッツカールトン」と「フォーシーズン」ホテルが開業した。2011年度から京都マラソンが開催された。2012年度に外国人観光客向けウェブサイトの8言語化が行われた。また,2013年度からムスリム観光客向けレストラン情報を専用ウエブページで発信した。

(4)農・食・観光クラスター形成の効果

 京都の観光客が5,000万人を突破したのは2008年であり,2015年には5,684万人となった。このうちの宿泊客数は,1,362万人であった。この中で外国人宿泊客数の増加が顕著であった。2013年に113万人であったが,2014年に183万になり,2015年には316万に達した。この大きな要因の1つは,2014年に,アメリカ旅行雑誌「Travel & Leisure」の世界人気都市ランキングで京都市が世界第1位を獲得したことである。2015年も2年連続で世界第1位であった。たとえば,京都の嵐山モンキー・マウンテンは,あまり日本人には知られていないが,外国人の口コミで選ぶ,日本の人気スポットである「トリップアドバザー」において外国人には2014年に日本全体の14位にランキングされた。

 結論として,クラスターの組織部門を形成する効率的な順序である「シークエンスの経済」は,①駅ビル,②プラットフォーム,③文化強化事業を見出すことができる(朽木(2014)参照)。

[参考文献]
  • 朽木昭文(2014)「成長戦略としての「農・食・観光産業クラスター」の形成」『国際貿易と投資』,No. 98,73−87ページ
  • 京都駅ビル“Company Profile”:アクセス2017年1月8日https://www.kyoto-station-building.co.jp/corporate/history/.
  • 京都市(2014)『京都観光総合調査』,京都市。
  • 京都市長記者会見資料(2009)『入洛観光客数5000万人達成について』,京都市産業観光局観光部観光企画課,5月12日。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article800.html)

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