世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプの当選とアメリカングローバリズムの黄昏
(立命館大学 名誉教授)
2016.11.28
世界をあっと言わせたトランプの勝利は,一方のヒラリーがIT産業と金融の牙城である東部と太平洋岸にしか優位を築けなかったのに対して,航空宇宙と石油に代表される南部のサンベルト地帯と,フロストベルトとかラストベルトといわれて,かつての繁栄と栄光から置き去りにされがちな伝統的な在来型工業が多くある五大湖周辺の双方を制した上に,さらに農業基盤の広がる中西部全域にまで優勢を確保した,その戦略的展開の巧妙さを際立たせた。もっとも全体の投票ではヒラリーが上回っており,2000年の時のゴアとブッシュとの間の選挙結果と同じ傾向を示していて,アメリカ国民の選択が事実上拮抗していることを如実に示している。だからその空隙を突いて,共和党から立ちながらも,民主党は無論のこと,共和党を含めた既成政党の批判を声高に繰り返し主張した,破天荒なトランプの選挙戦術とマヌーバー振りが功を奏した形となった。
このことの意味合いは多くあるが,その背景の淵源の一つに,1990年代にクリントン=ゴアチームが折からの「IT革命」に乗って,知財重視のサービス経済化と「情報スーパーハイウェイ」構想に基づく「ニューエコノミー」を展開し,それは120ヶ月を超える連続的な経済指標の右肩上がりの上昇と未曽有の経済成長を生み出したが,その内実はコンテンツとネットの情報産業と,ヘッジファンドに代表されるウオール街の巨大金融業の跋扈と興隆に帰着し,その裏面では,そこから取り残された中間所得層以下との間の極端な貧富の格差を生みだしたことにある。とりわけ「アメリカンドリーム」を享受できると考え,長年にわたってアメリカ社会の安定的な政治基盤を支えてきた広範な中間所得層の急激な没落を生み,富裕層との間に深刻な亀裂をもたらした。それが積もりに積もって,今回大いなる怒りとなって爆発するところとなった。トランプの掲げた「アメリカファースト」のスローガンの下,移民排斥とアメリカ人労働者の雇用拡大,そしてオバマの医療・保険改革の見直し,さらには同性婚反対などの,極端であけすけな主張が選挙民の琴線に触れ,ヒラリーの主張する「価値多様化」と寛容な姿勢の堅持による大団結の主張を突破して,偏狭な排除と排外を呼号するプロパガンダに勝利の道を開けることになった。
このことは世界に衝撃を与えた。この20年以上にわたってアメリカが牽引してきたアメリカングローバリズムが,今やそのおひざ元で音を立てて崩れ落ちようとしているからである。それはクリントン=ゴア路線の延長に,核廃絶と医療改革を掲げ,アジアシフトによる広域経済の実現による競争力の回復を目指したオバマの継承を謳うだけでは新味に乏しく,生活向上と雇用拡大には結びつかないし,またアメリカの「威信の回復」も実現できないと見られたからである。しかもアメリカングローバリズムの推進は,世界の安定どころか,近年,次々と世界各地でその綻びを見せてきている。多くの国々ではその恩恵に与るどころか,アメリカ以上にごく一部の層の富裕化と,それと極端にかけ離れた国民の圧倒的多数の貧困化との二極分解が進行している。しかもそれを糊塗すべく甘い幻想による人気取り政策や,その反対の極端な強権体制がはびこり,それは金権体質と腐敗の温床ともなり,それに対する猛烈な反発や強固な抵抗が世界の各地で続発している。さらに民族対立や宗教紛争の形を加味して,国家間の対立と緊張をかき立て,武力衝突や紛争激化,そして事実上の内乱にまで至り,さらには国際的なテロ行為の続発となって現れていて,アメリカングローバリズムに牙をむいている。これは冷戦崩壊後,体制間の対抗ではなく,一つのグローバル世界の構築を目指して,IT化を軸に,世界の経済成長と諸国家間の協調を重ねて,共同市場による広域経済圏の構築が多く目指されたが,それをご破算にして,国家を砦にして内に立て籠もったり,EU内でのドイツの突出やアジアでの中国の台頭に象徴される,新たな強国の出現を生み出している。
トランプの今後の進路は,実際にはこれまでの道を修正しながら,基本的にはより強圧的で自国本位の短期的な利益を他国へ押しつけていく方向に向かうことになろう。だが世界が一つになっていくグローバル化の進展は決して否定されるべきではない。問題はその進め方である。覇権国が自国の利益を優先させる,単一の,上からのトップダウン式のものを嫌っているだけであって,各国が平等,互恵,対等に協力し合っていく,下からのグローカリズムの展開を諸国民は渇望している。その底流を理解せずに,いたずらに反グローバリズムを叫んでも,混乱や混迷に導くだけである。それはアメリカにも,「日米同盟」に依拠しようとする日本にもいえることである。今こそ発想の転換が求められる。
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