世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界経済の新しいうねり(その6)
((株)ベイサンド・ジャパン 代表取締役)
2016.09.19
世界経済長期停滞の打開への道
20世紀の覇権国としてのアメリカ経済は,シェール石油開発などでエネルギーの自立により国力を高めて来,再びアメリカは世界一の経済力を保持すると言ってきたが,どうもそうではないようだ。世界的な需要の減退により,石油の過剰,石油価格の下落で,アメリカのシェール石油業界は4兆円の赤字を抱え,サウジなどの出方により更に悪化するとみられており,産業は伸びていない。
アメリカは,基本的には外国の資金を借用し,それで買える所得の無いものに金を貸し付けて商品を買わしている状態で,「架空の需要」で自動車産業も住宅産業も何とか息をついている。異常なサブプライムローン問題が未だに存在しているし,アメリカの「家計の債務」は,今やリーマンショック直前よりも,大きくなっている。資産価値が少しでも下落すると,また大変なことになる状態だ。経済のファンダメンタルな要素として,最近アメリカの「貨物の輸送量」が減少しているという情報もある。そして最も重要な国民の実質所得は伸びていない。だからFRBのイエレンはなかなか利上げができないで困っている。イエレンは中国経済の不安を理由にしているが,アメリカの実体経済そのものが不安なのである。
アメリカも世界経済政治を牽引する役割を降りようとしている。もうそんなにアメリカも経済力がないからである。そのアメリカの国民が支配層に対してノーを突きつけているのだ。EUでは,ユーロ安を利用して輸出ドライブをかけているドイツの独り勝ちであるが,それは結果的に他のEUの国が犠牲になっているためで,ドイツが世界をドライブする力はない。ましてやリーマンショック以来経済が低迷して一人負けと言われている日本がドライブできるわけがない。中国はあらゆる産業で不良債権,ゾンビ企業を抱えこれをどう収束させるかで苦労している。
世界的に金融緩和,財政投資はしたが一向に経済は良くならない。実質利子率を下げても,消費が伸びない。 需要喚起されない。金融緩和しても企業は投資をしない。金融緩和と財政投資は「政策飽和」状態になっている
今日の世界の国の経済はどこも疲弊し,発展をドライブする国が見当たらない。
しかし世界的に2000年から経済の停滞に襲われ,いろいろとそれを克服しようとして手を打ってきたが,一向に良くならない。その中で国民大衆はますます貧困化してきている。誰もどうすればよいかが分からない状態で,大きなフラストレーションが積り,爆発寸前になっている。何度も指摘したように,これがトランプ現象となって表れているのだ。
日本も,失われた20年の間,いろいろのことを試みたが,よくなるどころかますます悪くなっている。国民は疲弊しているが,レジスタンスも起こさない。諦めているか,ゆでガエルになっている。
レジスタンスをするだけでは,前に進まない。トマ・ピケティは,大格差は資本主義の運命であると言った。せいぜいあるのは相続税を高くすることだと言う。勿論これは解決策にならないことはいうまでもない。
しかし良く冷静に考えてみると,ちゃんとした先に進む道があるのだ。筆者の言わんとすることは,つい40年前に,資本主義社会は格差の少ない,国民中間層が豊かになり,経済が発展した1945年から1980年の資本主義の黄金時代という実績がある。勿論そこにもいろいろの問題はあったが,今日とは天と地の差である。この黄金時代の社会経済構造がある者たちの手で人為的に破壊されたことは,先に述べた。その破壊した手口もちゃんと分かっている。何を修復し,何を再構築すべきかということが分かっているのだから,これからこの修復・再構築作業を進めようと言うことである。
そこに進むべき道があることが分かると,どんなに貧乏でも,逆境にあっても希望が持て,前に進める。戦後の日本の状態を思い起こせば分かる筈だ。イギリスも,アメリカも,EUも,この道を進めば,先が開けてくる。いやアメリカは既に動き出している。中国もそれに気付いている。日本人はすぐ「煮えている釜」から飛び出さなければならない。
しかしアメリカがこれまで行動してきたのは,ヒロソフィーとして「一神教」であったが,これでは世界経済は先に進めないことは,アメリカ人も気付いている。東洋の多神教,有識論を基にしなければならない。資本主義の分業は他を認めることであり,他を信頼することである。
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