世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.679

イギリスEU離脱の意味(その2)

三輪晴治

((株)ベイサンド・ジャパン 代表)

2016.07.25

 アメリカ経済の問題

 アメリカのトランプ現象は,低所得の中間層の反乱である。トランプの力が衰えないのは,アメリカ自身が仕掛けた金融資本によるグローバリゼーションで,アメリカ経済自身を錯乱し,自国民をも傷つけてしまったことに対するアメリカ国民の反乱であるからである。そしてウォールを中心とするエスタブリッシュメントにたいする反乱である。このアメリカの問題は,イギリスのこの問題と全く同じ性質のものだ。基本的には,大所得格差に対するアメリカ中間層の反逆である。

 アメリカが1975年以降,それまでの黄金時代であった福祉国家体制を破壊し,大所得格差を造り,経済の停滞をもたらしたのは,確信犯としてのある動きがあったためである。それは,1971年の「ルイス・パウエル・メモランダム」という檄であり,その具体的な実行者がレーガン大統領であった。つまり資本主義経済活動の利益を労働者・国民中間層から資本の側にシフトさせようという大きな動きである。1981年から今日までのアメリカの所得格差の悪化を見れば,それが良く理解できる筈である。イギリスでもレーガンの尻馬に乗ったサッチャー首相が,レーガン大統領の新自由主義による破壊的な手口を真似て,イギリスの所得格差を拡大し,経済を停滞させた。日本も小泉政権が同じことをやったのであり,今日の日本経済の問題の根はここにあることは,日本ではあまり知られていない。

 この観点から,イギリス問題も,アメリカ問題も,そして日本問題も,その解決のために,壊された福祉国家の仕組みの修復,再生改革をこれから進めるのだという決意をしなければならない。

 案の定,中国経済は失速したので,やはりアメリカが世界経済を牽引するのだと言われてきたが,しかしアメリカの実態経済はそんなに良くはない。そのためか,イエレンFRB議長もなかなか利上げができない。イエレンは,利上げができないのは中国経済の失速と言ってきて,そして今はイギリスのEU離脱の為だと言い訳をしている。イエレンのいう「失業率」にはもっと隠された悪いものがあり,アメリカ経済の実態は憂慮すべきものがある。最近アメリカのイノベーションが停滞してきていると言われている。アップルも,インテル,マイクロソフトも成熟から衰退のステージに入ってきた。主導産業が枯渇したのである。

 現実に,最近アメリカから外国の資金が逃げ出しているし,そのために海外に出ているアメリカ資金がアメリカに引き上げられている。信じられないことだが,今アメリカ以外の銀行は,アメリカ企業・アメリカ人には金は貸さないという動きをしている。ある銀行は,金を貸すとき,あなたがアメリカ人でないという証明を出してくれと言うそうだ。

 アメリカは,今台所が大変であるために,なりふり構わず,不正を暴くための判例・ノーハウと司法力で,あらゆる理由をつけて,海外から資金を収奪しようとしている。(これがTPPの狙いの一つであるが)VWから燃費の詐欺で1.5兆円を巻き上げたし,今度タカタのエアーバッグ事故で膨大な金を日本から巻き上げようとしている。既にこれまで日本のトヨタその他からも膨大な金をアメリカは巻き上げた。国際カルテル違反の名目で,日本の企業から膨大な罰金をとりたてており,更に多くの日本企業が目をつけられている。同時に国防費を削減し,それを日本に肩代わりさせようとしている。それほどアメリカは衰退しているのである。それがトランプ現象として現れているのだ。

 アメリカは真面目に,社会経済構造を修復し,国民大衆が生産された商品を購入し消費する形にしなければならない。同時にマネーゲームではなく,真面目にものづくり産業を開発しなければならない。

 こうしたアメリカの動きを軌道修正して,真の国のあり方を修復・再生さ,イノベーションを促進しなければならないのだ。

機能するEUづくりへの改革

 イギリスEU離脱問題は,EUとイギリスの利権抗争では解決しない。イギリスのEU離脱投票をきっかけにして,EUとしてより良く機能し,現在の矛盾・問題点を解決するための改革運動が起こるであろう。先述のように,もともとも震源地であるアメリカも,パウエル・メモを破棄して,国民大衆が生産された商品を購入・消費できる資本主義として「国民大衆資本主義」を取り戻すための「構造」の修復・改革を進める必要がある。

 その意味では,新自由主義の行き過ぎの是正,修復をしなければならない。

 1975年から世界の資本主義経済の仕組みが,新自由主義で変形,暴走し,行き過ぎたことが,今日の世界経済の所得格差,中産層の疲弊,イノベーションの停滞が長期停滞をもたらし,いろいろの分裂現象を引き起こしているのである。それはハイパー・グローバル化の是正と,金融資本の動きの規制である。本来の産業をサポートする金融に戻すことである。

 大きく見れば,これは,世界的な土台と上部構造の矛盾・乖離が原因であり,その中で,これがエリート支配層,既得権者と国民大衆の断裂として現れる。21世紀の新しい上部構造を創造することを迫られているのだ。もしこれが正しい理解なら,その行き過ぎを是正修復し,21世紀の世界経済の新しい仕組みに構築作業を進める必要がある。

 ハイパー・グローバリゼーションの是正としては,リカードの比較生産優位の原理に基づいた「国際分業」をもとにした,国民国家をベースにしたインターナショナル経済であり,これが人間の資本主義経済が本来の姿であるという基本を確認することである。無国籍企業が,価格切り下げ競争と大量生産でますます膨張しながら,宇宙を飛び回って,国民経済を錯乱してきているが,これはチキンレースの暴走の罠に落ちている。その意味では企業自身も変わらなければならない。GMとかトヨタやユニクロのような企業ではなく,ホンダやドイツの隠れたチャンピオン企業のように地域市場に足をつけ,そこでの矛盾を解決しながら,多様性をもって市場の欲しがる商品を開発する企業である。

 金融資本は,広い意味の付加価値を創造する商品生産活動の中でそれを支えるものである。今日の金融資本はお金でお金を買い,利益を上げようとしてきたが,付加価値の創造はなく,互いの富の収奪合戦であった。

 近年の異次元の金融緩和という金融政策は,世界的に見て,資金を民間部門から政府部門にシフトさせてしまってきたことから,マネーゲームに走らせ,産業活動を委縮させている。これが経済の活性化を阻害し,デフレ圧力を強め,所得格差の拡大,中間層の疲弊をもたらしている。日本もこれを機にアベノクスではなく,ここで説明したような本当の「構造改革」をやらなければならない。これまで日本では30年来言い続けられた「構造改革」とはこのことである。

 ある噂によると,このイギリスのEU離脱騒動のなかで,長い歴史のなかで世界に躍進してきた大英帝国のDNAにより,イギリスを,シンガポールを遥かに超えるような,世界の資本・情報・産業を呼び寄せる新しいセンターにしようとする動きをしているという噂がある。そうしたエネルギーの一方では湧いてきていることだ。世界経済の基本は,人類の知恵を出して,21世紀インターナショナルエコノミーのアーキテクチュアーを創りあげなければならない。経済活動における互恵・補完を理念としたEUの社会経済の新しい制度設計が求められているのである。

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