世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.669

中国の海への本格的膨張

津守 滋

(東洋英和女学院大学 名誉教授)

2016.07.11

 中国の海への本格的膨張について考えてみたい。

 中華帝国の復権を目指す習近平は,特に海への膨張を目指している。本来中国は,大陸国家である。歴史上中国の対外関係は,常に西の諸国との関わりが主流であった。特にモンゴルやロシアとの対立抗争によって,その歴史は彩られてきた。他方海への進出膨張は,14世紀鄭和による大航海を数えるのみであった。中国の対外関係の脆弱性は,この事実により明らかであった。19世紀初頭のアヘン戦争による屈辱的な敗北は,その結果である。当時国内経済規模の大きさが,世界のGNPの30%を超える超大国で,米国のそれ(3%)をはるかに凌駕していた。このような内外実力差の格差は,解消されないまま欧州列強や日本の半植民地にされ,ひいては大戦に巻き込まれて,その終結まで復権のチャンスが訪れなかった。そして今訪れたこのチャンスをフルに活用すべく次々と手を打っている。それが「一帯一路」であり,「真珠の首飾り」である。特に遅れた地域のインフラ整備のため,AIIBの豊富な資金を活用して,インフラ整備を先導役として,西方への影響力を駆使し,影響力を及ぼしている。同銀行は,6月24日北京で理事会を開き,最初の融資案件として,インドネシア,パキスタン,タジキスタンあてに,資金供与を決めた。このほか,単独でバングラデシュあての融資と合わせ合計5.1億ドルを供与する。「2つのシルクロード構想」の実現である。

 このような西への進出は,当然ロシアとの摩擦要因になる。ウクライナ問題で西側との問題を抱えるロシアは,中国への依存を高めるべく,その「ユーラシア経済連盟」と「一帯一路」の連携に関心を有している。プーチン大統領は,習近平との間で,両者の連携に合意している。ここに「海陸のシルクロード」により,中国は海への膨張のみならず,本来の大陸国家としての存在感を改めて示している。

 さらに「真珠の首飾り」戦略により,特に対印牽制の拠点であるパキスタンのグワダルに,巨額の資金をつぎ込んでいる。グワダル,ハンバントン(スリランカ),チッタゴン(バングラデシュ),さらにはミャンマーのチヤウピューを結ぶ連鎖は,今後の状況いかんにより,経済のみならず,軍事的意味をも持つ拠点になろう。

 このようにグローバルな膨張の主要チャネルである海への膨張として,東シナ海や南シナ海でのアグレッシブな膨張のみならず,よりグローバルな大洋への進出を着々と推し進めている。日本の安全保障にとり,直接,間接に関わる東シナ海や南シナ海については,最近緊張が高まっている。去る6月9日斎木外務次官(当時)は朝3時に中国の駐日大使を外務省に呼び,中国艦船の日本の接続水域を通過した事案について,厳重に抗議した。もし日本の自衛艦に遭遇したならば,どのような不測の事態が発生したのか,問題はこれまでの中国船の場合とまったく異なることは明らかだ。これまで中国の軍艦がこのような冒険を犯したことはなかった。さらに15日中国船が鹿児島沖のトカラ海峡を通過,金杉アジア太平洋局長が中国大使館に「懸念を表明」している。通常であれば,「無害通航」が認められるが,わざわざ近くの公海を通らず,日本の接続水域を通る意図を問題にしたわけである。

 翻って,中国の長期的意図が,米国の派遣に対抗することにあるとして,はたしてこの意図が,実現するのであろうか。経済,軍事に加え,その膨大なソフトパワーを考えれば,巨大な米国と対抗するには,中国の力不足は明らかでないだろうか。

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津守 滋

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