世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.667

TPPとサービス貿易:協定文の内容と展望

石戸 光

(千葉大学 教授)

2016.07.04

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は物品貿易だけでなく,越境サービスの自由化が規律されている。そこではWTOのGATS(General Agreement on Trade in Services,サービス貿易一般協定)とは違って,いわゆる「ネガティブリスト方式」が採用されており,自由化を「約束しない」(あるいは「留保する」)分野のみをリストアップし,残りの規制は撤廃されることになる(GATSの場合には,「ポジティブリスト方式」で,自由化を約束する分野のみをリストアップしている)。

 TPPの協定文では,附属書Iで「現行の規制に関する留保(現在留保)」を行っているが,一例として新興国ベトナムの附属書Iにおける留保内容を見ると,ベトナムは全般的に自国との合弁企業(外資出資比率の制限を伴う)を規制として多く使用しており,自国の経済発展に資するかどうかが新興国として大きな関心事となっていることがうかがえる。また個別分野では,TPP発効後5年の猶予期間を経て,コンビニエンスストアやスーパーマーケット等の小売業の投資についての「経済需要テスト」が廃止されることも分かる。また電気通信業の外資出資比率規制の緩和がなされ,また劇場,ライブハウス等娯楽サービスの外資規制緩和や国内映画優先指定の緩和もなされることが読み取れる。

 TPP協定文の附属書Iとは別の附属書IIにおいては,包括的で将来にわたって規制を留保することを表明する「将来留保」について明記されている。その留保内容は多岐にわたるが,ベトナムの部分では,例えば会計,簿記,税務サービス分野において,既存の国内法令を維持する権利を留保することが記されている。さらに附属書IIIにおいては,金融分野についての留保内容が記載されており,それを見ると,商業銀行への外資出資比率規制の緩和が協定発効の5年後以降になされることがわかる。サービス関連では,他にも附属書IVには国有企業の留保内容が明記されており,またサービスを含めたビジネス関係者の一時的な入国に関しても,TPP協定文の別の章で附属書が存在している。

 これらサービスに関連する附属書の内容を法的に読み解いて,「TPPにおいて新規に市場開放されるサービス分野」を特定することはなかなか容易ではない。ベトナムの場合,GATSでは約束されていない「新規分野」であると附属書に記されていても,実際には例えば日本とベトナムとの経済連携協定ですでにカバーされているサービス分野というものが存在している。

 しかし,たとえTPP協定文(附属書を含め)に記載されている規制に「真水の部分」,すなわちGATSや既存のFTA(Free Trade Agreement,自由貿易協定)では自由化が約束されていない,「本当の意味で新規に市場開放する分野」が法的な意味で多くなかったとしても,TPPがサービスのルールおよび市場開放分野を統一的に規律している,という事実自体が一種の「アナウンスメント効果」となって,サービス分野の企業進出が環太平洋域内で活発化することは大いに期待できる。今後はTPP発効を見すえて,その協定文におけるサービスの新規自由化の部分を参加国ごとに精査していく必要がある。同時に,TPP参加国における既存のサービス諸分野の規制内容(上述の通り,TPP協定文の附属書に記載されている)を再確認することも,サービス貿易・関連投資のTPP域内での拡大展開を検討するサービス企業にとって重要と思われる。

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