世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.664

「H28 熊本地震」愚者の経験:「2030年問題」と「国防」

岡本悳也

(熊本学園大学 名誉教授)

2016.07.04

 「日本列島」が「地震・火山列島」であることはつとに知られている。阪神・淡路」,「東日本」も遠い昔のことではないのに,「まさか熊本」でというのが熊本県民の異口同音の嘆声であった。震度7が直撃した被災地の家屋のおびただしい倒壊,堅固な阿蘇大橋を崩落させた巨大土砂崩れの現場は身のすくむような惨状であった。

 最高の専門的知見によれば,「南海トラフ巨大地震」,「首都直下型大地震」が2030年代にはいよいよ高い確率で起こると予想されている。「まさか〇〇」でという嘆声が二度と聞かれることのないことを願って「熊本の経験」を報告し若干の愚考を披歴したい。

 「2030年問題」は必至でも巨大地震の被害を極小化することは可能である。「愚者は経験に学び,賢者は歴史に学ぶ」という。幸い先哲の教えがある。「3.11 東日本大震災」の年に刊行された,畑村洋太郎『天災と国防』,山折哲雄『天災と日本人』という寺田寅彦随筆選集に「天災と国防」が収録されている。「名著は口にされても読まれない」の言葉通り,「熊本地震」を機に始めてこの名随筆を読んだ。両碩学がこの「3.11」の大震災の直後に,等しく寺田寅彦に学ぼうとされただけのことはあり,1934年(昭和9年)執筆の「天災と国防」の警告は「熊本地震」を経験して「2030年問題」を考察するに極めて示唆に富む。賢者はいるものだと感心した。

 寺田寅彦は言う。「戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないであろうが,天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけにはいかない。その上に,何時如何なる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである。」「想うに日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では,陸海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け,日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。」「2030年問題」に備える重要な指針が端的に示されている。「国防」という言葉に抵抗感を持つ人もいるだろう。国家的防災体制,すなわち,「国防」と解すればよい。

 「阪神・淡路」,「東日本」と相次ぐ大震災を経験して日本は「国防」という観点からすでに学んでいることもある。熊本地震では自衛隊,警察の出動は迅速で,電気,ガス,水道,高速道路,新幹線の損壊の復旧は予想以上に早かった。警察は全国的に「広域緊急支援隊」をすでに組織し,ライフラインを担う大組織も「私企業」を越えた連携体制を確立している。「国防」という観点から弱体であったのは末端の「市町村」である。前線部隊が弱体なのである。多くの市町村庁舎は老朽化し,要塞自体が損壊,倒壊している。被災者の不満,非難は市町村に集中する。しかし,市町村役場を責めるのは酷なのである。市町村役場という小規模組織は住民に身近な平時の行政サービスを担う組織である。今回のような大災害に対応しうるような組織ではない。しかし,「2030年問題」の喫緊性を考えれば,全国の市町村は警察と同様に全国的な連携組織の下,「教育と訓練」を重ねて「広域緊急支援隊」を早急に編成してほしい。

 震災の度ごとにコミュニティの互助が言われる。今回も地震直後の初動で重要な役割を果たしたのは町内会である。町内会の組織と「国防」は戦時中を思い出させるかもしれない。しかし,「国防」という観点からはきわめて重要である。町内会の日常的活動の強化,特に震災時の権限強化と予算措置の必要性を町内会リーダーと話し合った。また,震災の度ごとに,NPO,ボランティアの活動が被災者から感謝されている。しかし,NPO,ボランティアの活動は安全上の理由とマッチングの調整から制約も大きい。「経験と訓練・教育」を重ねたNPOには震災時には準公的機関として活動してもらうことも検討してしかるべきではないだろうか。

 「熊本地震」の被災地では,地盤が極端に弱い場所を除けば,新築ビル,新築家屋にはまったく損傷,倒壊はない。地震による死者は倒壊家屋の下敷きによる圧死が大半である。したがって,地盤のしっかりした場所に,耐震度の高い建築物を構築できればたとえ震度7の激震が来ても人命が失われる確率は極めて低いだろう。被害を最小化する唯一の対策である。

 しかし,安心のできる家屋を低所得層が確保することは極めて困難である。

 公的支援が不可欠である。大規模な公共用地を確保し,平時には活用する知恵を絞り,災害時には避難場所としていかようにも転用することを検討すべきだろう。

 戦後70年,日本は経済の繁栄を謳歌し,個人主義を満喫してきた。「2030年代問題」を見据えて,「個人主義」が「ポピュリズム」に堕すおそれを抑制すること,「公共意識」に覚醒することによって「国防」体制を整えることが喫緊の課題でないかと深く反省する。

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