世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.641

ブランド米とブレンド米

茂木 創

(拓殖大学政経学部 准教授)

2016.05.16

 200人を収容した大教室での講義。食料自給率の推移を指し示しながら,1993年の急落を尋ねても,それが「平成のコメ騒動」とよばれる出来事だと即答できる学生はほとんどいなくなった。

 平成のコメ騒動。フィリピンのピナツボ火山が引き起こしたとされるエルニーニョ現象によって,1993年,日本は記録的な冷夏にみまわれた。その結果,コメの全国作況指数(当該年度の収量と平均収量の比)は74まで下落することとなった。とりわけコメの一大産地である青森(作況指数28),岩手(30),宮城(37) ,福島(61)の被害は甚大で,日照不足から,稲に発生するカビの一種「いもち病」によってブランド米のコシヒカリは大打撃を受けた。

 政府は,タイ,アメリカ,中国などからコメの緊急輸入を決定したが,結果的に数量がそろったのは日本人の慣れ親しんでいたジャポニカ米ではなく,インディカ米のタイ米であった。品不足からくる価格の高騰を抑制すべく,政府は国産米とタイ米とをブレンドして販売するよう指導した。もちろん,ブレンドとは名ばかりで,抱き合わせ(別添)で販売していた店舗も多かったが,平成のコメ騒動を契機にコメを「ブレンドする」という行為が,「消費者を欺くもの」といったイメージで捉えられてしまった感は否めない。

 しかし,コメ騒動から二十余年,「ブレンド米」がにわかに脚光を集め始めている。魚沼産コシヒカリに代表されるような「ブランド米」は,高品質が保証される一方で,生産費用が高いという弱点をもつ。とりわけ,生産工程における人件費の割合は大きく,高齢化に伴って生産技術の継承にも赤信号が灯っている。こうした状況下にあっては,生産量を増やすのは至難である。

 また,品種のみならず産地も限定する「ブランド米」は,日本でしか作れないものとして海外の高所得者に高く評価される一方,それがゆえに顧客ターゲットがきわめて限定的となってしまうという問題も抱えている。大量生産できないために高価格なのだが,それがネックとなって,増加する新興国の需要に応えられていない。

 現在,世界では空前の「和食」ブームがおきている。「和食」がユネスコ無形文化遺産に選定されたのを追い風に,ジャポニカ米の海外需要も高まっており,日本のコメを売り出す好機でもある。しかし,日本のブランド米と海外産のコメの内外価格差はあまりに大きく,日本の「ブランド米」が海外市場で優位にたつことは極めて厳しいといわざるを得ない。

 この内外価格差を縮小するための妙手として注目されはじめたのが,「ブレンド米」である。複数ブランドのコメをブレンドして提供するという手法は,日本でも,古くから米屋や寿司屋,日本料理やなどで考案されてきた方法であるが,コメのブレンドは,単一品種,産地限定を好む日本人にあっては正当な評価が与えられてきたとは言い難い。

 ある寿司職人から,こんな話を聞いたことがある。

 「コメって何種類あるか知っているかい。500種類もあるんだ。実際農家さんが作っているのでも100種類もある。コメには個性があるんだよ。誤解されるんだが,美味いコシヒカリで作った寿司が必ずしもうまいっていうわけじゃないんだよ。職人によってはコメの長短を考えて米屋にブレンドしてもらったり,季節や扱うネタによってブレンドの割合変えたりと,いろいろ工夫しているんだよ」。

 米穀安定供給確保支援機構によれば,主食用のコメの作付け割合上位10品種が全体に占める割合は75.9%(うちコシヒカリ36.1%)という。消費者が目にするコメは,コシヒカリ,ひとめぼれ,ヒノヒカリ,あきたこまち,ななつぼし,といった作付け割合上位品種がほとんどである。確かにこれらの「ブランド米」は,そのまま食して美味である。しかし,複数のブランド米をブレンドすることで,料理によってはむしろ望ましい場合も多い。さらにもまして「ブレンド米」の最大の利点は,価格を低廉に抑えられるという点にある。これは日本産のコメを輸出するうえでの強みである。

 「ブレンド米」への取り組みは,回転寿司チェーン店で急速に進んでいる。日本のコメの輸出を取り扱う神明ホールディングスは,自社の主力商品であるブレンド米「あかふじ米」を展開する一方,回転寿司チェーンの「かっぱ寿司」や「元気寿司」で使用するブレンド米の供給に着手している。「あきんどスシロー」はJAと協力し,滋賀県の新品種米「レーク65」や,茨城県の新品種米「ふくまる」を基にしたブレンド米を寿司米として使用している。回転寿司の「かいおう」は富山産こしひかりブレンド米を,札幌を中心に展開する回転寿司「海天丸・北々亭」は,北海道産の「ふっくりんこ」のブレンド米を使用している。

 コメをブレンドするという行為が消費者の見える形で行われ,そしてそれが匠の技によってコメそれぞれの持つ良さを引き出し合う結果となるのであれば,「ブレンド米」は日本のコメ輸出の新たな地平を開拓することになるのではないかと期待される。

 ハイスペックな「日本ブランド」を輸出することも大事だが,輸入国の経済状況,ニーズに合致した「日本ブレンド」。これから目が離せなくなりそうである。

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