世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.638

「グローバル・マーケティング研究会」にみるグローバル化の課題

大石芳裕

(明治大学 教授)

2016.05.09

 1999年5月28日,日本商業学会のワークショップとして誕生した「グローバル・マーケティング研究会」(以下,グマ研)は,2016年6月の例会で第100回を迎える。2008年までは主として当初の日本商業学会ワークショップの形態をとっており,主要メンバーは日本商業学会に所属する研究者であった。ただ,単発的に明治大学で「サムスン電子」の研究会をやったり(2005年11月),「グローバル広告」の研究会をやったり(2007年12月)して実務家も増えていった。

 2008年後半あたりから明治大学で実務家を中心とした報告をやるようになり,参加者も実務家中心になっていった。2009年7月からはほぼ毎月「例会」を明治大学で開催するようになり,それが現在まで延々と続いている。筆者が代表世話人を務めているが,このような性格変更が生じたのは実務家の要請が強かったからである。学会やビジネススクール,単発的なセミナー,あるいは高額な数日間の研修以外に,実務家がグローバル・マーケティングや国際経営を学ぶ機会が少なかったのである。なにせグマ研は「会費も参加費も無料,ついでに報告者に謝金も交通費も払わない」完全フリー制であり,その割には「報告60分,質疑応答60分」とたっぷりと議論する場が設けられている。明治大学駿河台校舎という東京勤務の実務家が来やすい立地にあり,「予約なし,来たい時に来て,帰りたい時に帰る」という柔軟な仕組みである。時間という費用さえ払えば得るものは大きい。ということで「コスパ」が極めて高い。

 2016年5月7日現在,メーリングリストに登録されている会員数は1790となり,ここ数年,毎年300名ずつ増えていることになる。毎月の例会に200名前後が集まっている。2014年3月には「グローバル・マーケティング研究会関西」が林廣茂先生(同志社大学ビジネススクール名誉教授)と藤澤武史先生(関西学院大学)によって設立され,2,3カ月に1回のペースでこちらも例会を開催している。その他,グマ研の会員でもある小々馬敦先生(産能大学)が「代官山ブランド経営研究会」を,北川浩伸氏(JETROサービス産業部長)が「グローバル・サービス実践塾」を立ち上げてもいる。実務家にとってこのような学ぶ機会が増えつつあることは朗報であろう。

 17年間グマ研を主催してきて,もうすぐ研究会が100回になろうとしている今,実務家がグローバル化にいかに悩んでいるかが手に取るように分かる。もちろん,グマ研には研究者も院生も学生も参加しているのだが,実務家の声は悲鳴に近い(と,私は感じている)。その全容をここで明らかにすることは不可能で,それは別途何かの形で表したいと思っているが(一部は『日経広告研究所報』に「グローバル・マーケティング最前線」というタイトルで連載中),いくつかを箇条書き的に挙げると下記のような問題がある(順不同)。

  • ・社内にグローバル・マーケティングや国際ビジネスを体系的に学ぶ機会がない。
  • ・社内トップマネジメント層のグローバル・マーケティングへの理解が弱い。
  • ・現実に海外現法に異動になると,本社のグローバル化度の低さを痛感する。
  • ・海外現法駐在者(経験者)は日本企業の競争力の弱さを痛感している。
  • ・個人として学ぶ意欲はあるのだが,忙し過ぎてそれどころではない。
  • ・他社の事例を深く学ぶ機会がない(だからよく知らない)。

 その他,幾多の問題があるのだが,ここで重要なのは実務家が抱える問題を全て列挙することではなく,我々研究者がどれだけ実務家の悩みに真摯に立ち向かっているか,ということである。グローバル・マーケティングという実務にすごく近い学問を研究している者にとって,研究者としての役目は何かということを突きつけられているように筆者は感じている。まだ筆者自身,暗中模索の状態あるいは混沌の渦中にあり,何の解決策も思いつかないし何も行動しているわけではないので,悩んでいるだけに過ぎない。研究者は実務家のように実務に詳しいわけでもなく,コンサルタントのように実務家の問題を直接解決する立場にもない。研究者には研究者の役割があると思うのだが,残された時間の中で解答が見つかりそうもない。ただ一つ心がけているのは,実務家が抱えている問題を学び,そこから新しい研究や理論を生み出したい,ということである。それが日本企業のグローバルな競争力の維持・向上に少しでも役立てば本望である。

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