世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.595

優れた技術・接客力を誇る日本美容業が直面する課題

今井利絵

(ハリウッド大学院大学 教授)

2016.02.15

 2014年度の美容市場は,1兆5,285億円,前年比98.5%(1)と減少傾向にあり,1999年をピークに減少し続けている。このことは少子高齢化による客数の減少もさることながら,年間利用回数や年間利用金額が減少していることが原因といえる。女性の美容室の年間利用回数の平均は,2年前の5.07から2015年には4.61に減少しているし,女性の美容室1回あたりの利用金額は3年前の6,679円から2015年には6,462円に減少している(2)のだ。これに対して,ASEAN諸国の年間利用回数は非常に多い。タイ18.6回,インドネシア16.4回,ベトナム13.4回などである(3)。

 日本では美容師は国家資格であり,また仕事を丁寧にする国民性から,美容技術やヘアスタイルは,アジアの先端を行くと言われる。そのため,アジア美容経済の発展に貢献することを目的とした,一般社団法人アジアビューティアカデミー(ABA)(4)のような動きも出ている。これはアジア各国に美容アカデミーを設立,美容技術・技能をライセンス化し,普及させ,ひいては永続的な業界発展を目指すものである。

 また,サロン内のOJTやベンダーのセミナーでも接客の教育を行っている(5)ため,お客様に対する応接やおもてなしも,日本は他国から一目置かれている。訪日外国人が日本で体験したいことの中で美容サロンは第7位に位置付ける(6)など人気のサービスであり,観光やショッピングと肩を並べる体験であるといえる。そして実際に,美容サロンを利用して満足したポイントにおいて,「丁寧なカウンセリング」が35.4%を占め,5位(7)に位置付けている。衛生的が1位,2位から4位が施術,仕上り,効果の持続といった技術面が占めており,衛生面,技術面に次ぐ,3番目に評価が高い要素となっている。

 さらに,サービス業において必要不可欠といわれる従業員満足(ES)に対する努力も怠らない。日本では他業界に比べて待遇が劣っている面も多々ある(8)が,特に教育面の充実において群を抜いている。人を育成しようという意識が強く,制度・体制が整備されている。中国では,アシスタントに対する歩合を適用したり,スタイリストの基本給を抑え,歩合の割合を大きくしたりしている(9)。また,株式を割り当ることでモチベーション強化することもある。例えば北京の東方名剪(60店舗,売上高2億元)では,マネージャーは自己資金で3〜8%の株を購入可能である(10)。しかしながら同社の年間離職率は30〜40%と非常に大きくなっている。中国では,金銭面の待遇は充実しつつあるが,人材育成,技術教育という面では不十分であることがその一因であると考えられる(11)。さらに歩合を強化する一方で,美容学校教育を受けていない人材&技術・接客教育の不足というダブルパンチのスキル劣位の状態は,横行する「チケット」の押し売りにつながり,中国の美容業界全体の信頼性を落としているという。

 このように日本の美容業は,顧客満足面(CS面,すなわち技術,接客)やES面で優れているのに,なぜ停滞しているのだろうか。正しくは,低価格サロンは業績を伸ばしており,停滞しているのは中高価格サロンである(12)。業績を伸ばしているサロンがあるということは,市場ニーズが存在するということである。例えば「11cut」(182店舗(うちフランチャイズ店82),売上高49.9億円)は,「値段が安い」「スピーディ」「予約不要」「メニューがシンプル」「店販なし」というコンセプトで成長している。「安売り」ではなく,お客様に「時短(=時間価値)」を提供し価格を抑えることで,ヘアサロンを「ハレの日」に利用するものではなく,日常気軽に利用するものへと変化させた(13)。ヘアカラー専門店の「Speedy」も同様に,「ハレの日」のために行くのではなく,白髪のリタッチを主な目的とした中高年が,ホームカラーの代わりに,定期的に利用する。そこに通うお客様の目的は,ブランドサロンと同様「キレイでありたい」というものだ。

 日本の美容業はもっと「日常使い」のサロンを目指すべきではないだろうか。すなわち利用単価を下げ,来店頻度を上げるのである。単価を下げる方法はさまざまである。時短でも良いし,サイドメニューの強化でも良い。これまで低価格サロンを,「自分たちとは違う」と考え,あまりに目を向けな過ぎたのではないか。「日常使い」を増やすことが,どのサロンでも目標と掲げる「お客様のキレイをつくる」ということに最もつながるのではないだろうか。毎回1万近く掛かっていたのでは,若者も“美魔女”も日常使いは難しい。「利用単価を下げてたくさん来てもらう」。その戦略が今,必要ではないだろうか。

[注]
  • (1)矢野経済研究所(2015)。
  • (2)リクルートライフスタイル(2015)「美容センサス2015年上期」。
  • (3)野嶋朗,田中公子,佐藤友美(2015)『美容師が知っておきたい54の真実』女性モード社。
  • (4)ABAホームページ http://www.asiabeautyacademy.jp/(2016年2月10日参照)。
  • (5)メイ・ウシヤマ学園(2014)『平成25年度文部科学省委託事業 美容分野の専門人材の育成を支援する産学官連携コンソーシアムの組織事業成果報告書』。
  • (6)ホットペッパービューティアカデミー http://hba.beauty.hotpepper.jp/check/2412/(2016年2月10日参照)。
  • (7)ホットペッパービューティアカデミー http://hba.beauty.hotpepper.jp/check/2412/(2016年2月10日参照)。
  • (8)大沼竜太(2016)「ブランドサロンの美容師のキャリアプランの考察」ハリウッド大学院大学プロジェクト成果報告。
  • (9)劉勃(2016)「変動期の中国における中小ビューティサロンの経営戦略」ハリウッド大学院大学プロジェクト成果報告。
  • (10)同上。
  • (11)同上。
  • (12)『日経MJ』2015年11月4日。
  • (13)今井利絵「ヘアサロン業界」『小売&サービス業のフォーマットデザイン』(同文舘,2016年3月発行予定)。

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