世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.586

今そこにあるエネルギー危機

鶴岡秀志

(信州大学COI 特任教授)

2016.02.08

 石油価格の下落による世界経済の変調が「世界経済評論」の直近テーマと思うが、我が国は、今、より深刻なエネルギー危機を近い将来迎える瀬戸際に立っている。

 高速増殖炉「もんじゅ」を見捨てるのか? 原子力行政と管理・技術の不備から廃炉になることが濃厚な状況である。メディアは金食い虫で社会貢献しない危険な設備という論点でレポートするが、実は「もんじゅ」は日本の科学技術全般と社会基盤の将来に関わる重要かつ深刻な課題であることが論点から抜け落ちている。メディアの品質低下の問題は横に置いて、なぜ、「もんじゅ」という挑戦を行ったのか振り返ってみても良いのではないだろうか。

 1970年代に発生した石油ショックは学生であった小生の身にも大きな影響を与えた。レポート用紙を買えなかったのである。メディアはトイレットペーパーと洗剤の不足を象徴的な歴史とするが、IT化以前の時代にレポート用紙が無いことが学生にとって大問題であることを想像していただきたい。まだ水力発電割合が1/3で総発電量も現在の1/3程度の時代だったので、幸い停電にはならなかった。それでも第1次石油ショックでは日本の経済成長率が1/3に落ちたのである。この時、「油断」が日本の土台を揺るがすことを学び、大学時代(工学部)はひたすら原子力と核融合の技術確立を言われ続けた。NHK「夢千代日記」が流行り原爆の災禍が記憶にあった時代でさえも、核エネルギーの重要性を理解し、総合科学技術の「もんじゅ」に至るのである。この1980年前後の時代は、エネルギーソースごとのリスクを大学授業でも課題として真剣に検討させられた。当時の技術水準では、東京湾のLNG貯蔵設備も東京壊滅の原因としてかなり脅威であった(シミュレーションが行われていた)。つまり、「もんじゅ」は日本経済の将来を支える技術として計画、建設されたのである。

 現代は再生可能エネルギー(再エネ)技術が普及してきているが、ドイツの例を丁寧に見ていくと過剰な再エネへの依存は電力供給システムの破綻を招くことが明確になってきた。この問題は、不安定な再エネを支えるために稼働率の極端に低いベース電源を維持しなければならず、しかし、そのコストを負担しようとする利用者がいない、つまり、電力システムの破綻が見えていることである。経済合理性による問題に加えて、発電技術の維持向上までも失われるという、人類の知恵の後退、衰退もあり得る重大な問題である。先進国のエネルギーの40%前後が電力であることを考えると、このドイツの状況は国家破綻でしかない。我が国においても東日本大震災時の電力不足が経済活動に大きな影響を与えたことを忘れてはならない。

 「もんじゅ」は希少資源であるウランをとことん使い尽くすための技術開発である。また、プルトニウムのような超長期半減期を有する元素を非放射性元素に変換していく技術でもある。ナトリウム漏れという事故が枕詞のように指摘されているが、誤解を招くことを承知で言えば、「もんじゅ」では、漏れただけであり、事故の拡大を防ぐ能力があった。少し前にイオウ・ナトリウム (NaS) 型燃料電池が青森県でナトリウム漏れにより大規模火災を起こしたことを比較対象として論じるメディアは皆無である。核施設の重大事故という捉え方は間違いではないが、もう少し公平な見方をすべきである。さもなければ、日本の大きな富を将来にわたって失うデマゴーグにしかならない。

 ITとAIの進展に伴って今以上に電気が必要な世の中になるので、安定した電力供給は不可欠である。資源価格が安値のうちに将来「油断」にならないように文系理系の枠を超えてエネルギーインフラPDCA実践をすることが必要である。自動制御、モニタリング、ロボットといったAI技術も、元をたどれば原子力技術にたどり着くものが多い。日本経済を支える基礎科学技術を発展させるために「もんじゅ」の事は我が身として考え、いつまでも化石燃料に頼るわけにはいかないことを石油ショックに戻って考えてみる時がきた。

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