世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3762
世界経済評論IMPACT No.3762

成果を急ぐトランプ大統領

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.03.17

移ろい易い米国民の支持

 米国では,大統領は就任して最初の100日間に,自らの基本方針に基づいた重要政策を明示することで,リーダシップを発揮して成果を挙げられると言われます。トランプ大統領も,そうした最初の100日の重要性を意識しているのかもしれません。ただ,そうは言っても,第一次トランプ政権と比べても,事前に内容や影響を十分に検討しないまま,矢継ぎ早に関税賦課など様々な措置を打ち出しているとの印象を否めません。

 米国では,大統領の支持率がほぼ毎日発表されています。それによれば,トランプ大統領の支持率は就任直後の1月23日には56%であったものが徐々に低下し,3月11日には50%となりました。こうした支持率の推移は,2017年の第一次トランプ政権の発足時とよく似ています。2017年の時には3月7日まで支持率は50%以上でしたが,その後50%を割ることが多くなり,7月末には40%を割りました。第一次政権の時に米国民の支持が移ろい易いことを痛感し,早く成果を出さないと政権の勢いが失われるという危機感をトランプ大統領は抱いているのではないでしょうか。

米国の名目GDPは減速方向

 ただ,米国の関税措置などの対象国がトランプ大統領の焦りを感じ取ると,足元を見透かされて,譲歩を引き出すことが難しくなるでしょう。また,関税が米国経済にも悪影響を及ぼすとの見方が強くなると,米国内の支持を失う懸念もあります。米国の名目GDPは,コロナ禍による落ち込みの反動で急上昇した後,徐々に減速しています。前年同期比で見ると,2022年10-12月期の+7.9%から23年10-12月期には+5.8%,24年10-12月期には+5.0%へと下がっています。3月7日発表の2月分雇用統計によれば,名目GDPと相関が強い民間非農業部門の賃金総額は,前年同月比+4.6%と,2年前の2月の+6.8%,1年前の2月の+5.0%から減速しています。関税賦課によってインフレ圧力が高まると,家計の実質購買力が下がることで個人消費支出が鈍化するでしょう。Fedがインフレに対する警戒感を高め,利下げが先送りされるとの観測も高まり,景気悪化懸念が強くなってきています。

関税から米ドル安促進に転換か

 そうした点では,関税賦課措置は米国にとって経済的影響があまり大きくならない程度に留まると予想されます。ただ,トランプ大統領は,政治的に重要なラストベルト地域での支持を繋ぎ止めるためにも,外国企業に米国への生産拠点の移転を迫ることを,あきらめるわけにはいかないでしょう。

 トランプ大統領は,Fedに早期の利下げ再開を迫ったり,円や人民元などが不当に割安だと訴えたりすることを通じて,米ドル安を促すことに重点を置くようになりそうです。Fedが発表している米ドルの全般的な割高/割安の度合を示す米ドル広義実質実効為替レート指数は,2006年1月を100としたとき時,2021年1月の103.25から2025年2月には121.83まで上昇し,歴史的に見ても高水準にあります。米ドルの割高感が強いという点では,トランプ政権が米ドル安を促すことには一定の合理性が認められます。その点では,関税賦課より米ドル安促進の方が米国にとっては有効と言えます。また,日本や中国としても関税より通貨高を迫られる方が対抗策が取りにくいでしょう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3762.html)

関連記事

榊 茂樹

最新のコラム