世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3670
世界経済評論IMPACT No.3670

中国に完全従属するロシアの製造業

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.12.23

 中国汽車工業協会によると,2024年10月の中国の乗用車市場に占める中国プランドの割合は7割を超えた(注1)。また,トランプ次期大統領の誕生により,半導体・半導体製造装置の国産代替の機運がたかまり,中国の半導体株の急騰を生んだ。半導体株指数(CSI)が11月に急伸し,その上昇率が26%となった。

 そこで,新型コロナ発生前の2019年の製造業の付加価値生産の状況を見て,今後を予想してみよう。

1.製造業の付加価値(2019年):医薬品以外は中国が1位

 自動車産業,機械産業,化学工業,電気産業,医薬品産業の5つの製造業に注目してみよう(注2)。自動車産業,機械産業,化学工業,電気産業の4業種において,機械産業でイタリアが5位を占める以外は1位から5位までを中国,米国,日本,ドイツ,韓国が占める。

 その付加価値の世界主要国の状況を概観する。医薬品産業を除くすべての業種で中国の付加価値が1位である。電気産業の付加価値で日本が2位である以外は,その他の3業種で米国が2位であり,日本は3位,ドイツが4位である。韓国の付加価値は,機械産業を除くと5位である。

 そして,イギリス,イタリア,フランスの製造業の付加価値は,すべての産業で1位の中国の付加価値のおおよそ「5%以下」である。ロシアは,すべての産業で1位の中国の付加価値の1~2%程度だ。

 なお,医薬品産業の付加価値は,米国が1位であり,中国が2位である。中国の付加価値は,米国の87%である。3位以下の日本,ドイツ,イギリス,そしてフランスの付加価値は,米国の10%前後である。イタリアと韓国の付加価値が米国の5%前後であり,ロシアのそれが1%である。

2.製造業の特許数(2022年):自動車と機械で日本が1位,電気は中国,化学と医薬品は米国

 製造業の5業種の特許数において,自動車産業でフランスが5位を占める以外は1位から5位までを日本,中国,米国,ドイツ,韓国が占める。

 日本は,自動車産業と機械産業の特許数で1位である。中国は電気産業で1位,その他の4つの産業で2位である。米国は,化学産業と医薬品産業で1位,電気産業で2位,自動車産業と機械産業で3位である。ドイツの特許数は,電気産業と医薬品産業以外は4位である。韓国の特許数は,自動車産業で6位,機械産業と化学産業で5位,電気産業で4位であり,医薬品産業で2位である。

 そして,フランス,イタリア,イギリスの製造業の特許数は,それぞれの業種において1位の10%前後である。ロシアは,すべての産業で1位の特許数の1~4%程度である。

3.論文数(2022年):工学,化学,物理学で中国が1位

 論文数に関しては,工学,化学,物理学の論文数のデータがある。工学,化学,物理学の3つの科学では,中国が1位である。工学と化学では米国が2位で,それぞれ中国の22%,19%と約5分の1のシェアである。工学と化学では,ドイツ,韓国,日本,ロシア,イタリア,英国,フランスの国の論文数は中国の10%以下である。

 物理学の論文数では,中国が1位をキープしているが,日本が2位で中国の92%を占めている。韓国,米国,ドイツの論文数は中国の3分の1程度である。

 なお,フランス,イギリス,イタリア,ロシアは10%以下である。

4.研究者1人当たり研究費(2021年):米国の優位

 研究者一人当たりの研究費では,米国が第1位で,ドイツが米国の3分の2で第2位ある。中国の研究者一人当たりの研究費は米国の57%,フランスが47%で約半分ある。また,その他の国でも同様に,韓国,日本,イタリア,英国の研究者一人当たりの研究費が米国の約半分である。ロシアのそれは米国の4分の1である。

5.知識技術サービス業おいて逆転する米中の順位

 コンピュータ技術・光学器などの知識技術製造業の付加価値において,中国が1位であり,米国が2位である。知識技術製造業に関して,米国が中国の付加価値の3分の2であり,中国が大きな割合を占める(注3)。

 IT情報サービス業などの知識技術サービス業おいて,知識技術製造業と異なり米国と中国の1位と2位が逆転する。米国が他の国と比べて高い比率で1位であり,中国が2位である。中国の付加価値は米国の28%である。

 そして,知識産業全体でもロシアの付加価値は1位の国の1~3%である(注4)。

6.中国に従属するロシア

 知識技術サービス産業では,米国が圧倒する。しかし,知識技術製造業,そして製造業そのものでは中国が首位となる。トランプ大統領の中国への60%関税の導入は,中国製造業の拡大の契機となる。そして,ロシアの中国への従属が進む。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3670.html)

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