世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
財政政策に依存するポスト・コロナの世界経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.11.04
IMFは世界経済の緩やかな成長を予想
10月22日に発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによれば,世界経済は2025年から2029年までの平均で3.2%の緩やかな成長が続くとされています。先進経済は1.7%,新興・発展途上経済(以下,新興経済)は4.1%と,それぞれコロナ禍前の2015~19年の平均2.2%,4.4%をやや下回る成長が見込まれています。
一方,消費者物価インフレ率は,先進経済では2024年の2.6%から2025年には2%に低下し,その後も2%程度で推移すると予想されています。新興経済では2024年には7.9%と2023年の8.1%から大きく変わらない見通しであり,先進経済よりインフレ率の低下が遅れています。しかし,中期的には4%程度へと下がると予想されています。
高水準の財政赤字と政府債務の増大
一般政府(中央・地方政府,社会保障基金の合計)の財政赤字のGDP比は,2024年には先進経済では5.0%,新興経済では5.6%と2015~19年のそれぞれの平均値の2.6%,4.0%より高い水準に留まる見通しです。2029年までの予想値も15~19年平均を上回っています。先進経済も新興経済も,景気を維持する上で財政政策への依存度が高まっています。
高水準の財政赤字が続く中,政府債務のGDP比は上昇傾向にあります。先進経済では政府総債務のGDP比は,リーマン・ショック前の2007年には71%であったものが,2011年には101.1%に上昇し,コロナ禍前の2019年には103.4%,2024年の見通しは109.4%,2029年の予想値は114.2%です。新興経済では,それぞれ35.6%,36.7%,54.9%,69.9%,78.8%であり,GDP比は先進経済より低いものの,近年の上昇が顕著です。新興経済では政府債務の増大は通貨の信用低下につながりやすく,通貨が急落して金融危機に陥るリスクがあります。政府総債務のGDP比が250%以上と先進経済の中でも特に高い日本では,円は購買力平価などから見て大幅に割安となっており,円の信用低下を示唆しています。
強まる民間部門の支出不足状態
一国の収入と支出のバランスを示す経常収支から財政収支を引けば,企業や家計などの民間部門の収支(=収入-支出=貯蓄-投資)が算出できます。民間部門収支のGDP比は,2024年には先進経済では+5.3%,新興経済では+6.0%と,2015~19年のそれぞれの平均値+3.4%,+3.8%を上回る見通しです。これは収入に比べて支出の水準が低く,支出不足がコロナ禍前より拡大していることを示しています。先に財政赤字の拡大を指摘しましたが,民間部門の支出不足を政府が赤字を出して相殺している形です。
経済全体の投資のGDP比は,2024年には先進経済で22.2%,新興経済で32.0%と,2015~19年のそれぞれの平均値22.2%,32.1%とほとんど変わっておらず,投資不足ということではなさそうです。その点では,民間部門の支出不足を解消する上では消費支出の増大が求められます。コロナ禍を経て将来の不透明感が増し,消費支出を抑えて資産形成に努める傾向が世界的に強くなっているようです。税制や社会保障を通じて,消費性向が低い富裕層から消費性向が高い貧困層への所得再分配を強化することは,格差是正だけでなく,消費支出を増やすことで景気を維持しながら,財政政策に依存する状態に歯止めをかける上でも必要です。
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