世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3602
世界経済評論IMPACT No.3602

BRICS首脳会議とASEAN:4か国がパートナー国候補

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)

2024.10.28

 第16回BRICS首脳会議が10月22日から24日までロシアのタタルスタン共和国の首都カザンで開催され,36か国が参加した。加盟国が9か国に拡大してからの初めての首脳会議には,習近平国家主席,モディ首相,ラマポーザ大統領などBRICS原加盟国の首脳が参加した。10月19日に自宅で転倒し負傷したブラジルのルラ大統領は欠席し,外務大臣が代理参加した。新規加盟国からは,UAEのムハンマド大統領,エジプトのシシ大統領,イランのペゼシュキヤーン大統領,エチオピアのアビィ首相の全員が参加した。また,加盟に関心を表明しているトルコのエルドアン大統領,ベトナムのファン ミン チン首相らが参加している。参加を検討中のサウジアラビアは外務大臣が出席した。グテーレス国連事務総長も参加している。

パートナー国制度を創設し13か国が候補に

 首脳会議では新たにパートナー国制度を創設した。パートナー候補国は,インドネシア,マレーシア,タイ,ベトナム,アルジェリア,ベラルーシ,ボリビア,キューバ,カザフスタン,ナイジェリア,トルコ,ウガンダ,ウズベキスタンの13か国である(注1)。このうち,マレーシアとタイは今年の6月,7月に参加を申請しているが,インドネシアは参加を見送っている(後述)。また,カザフスタンのトカエフ大統領は首脳会議の前にカザフスタンはBRICSに参加申請しないと発言している。

 BRICSの原名であるBRICsは,米国の投資銀行ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニールが,論文「Building Better Global Economic BRICs」でブラジル,ロシア,中国,インドが経済大国になると予想し,4か国の国名の頭文字により造った造語である。BRICsの特徴は人口規模の大きさである。平川(2016)は,アジアの先行発展モデルのNIESの人口規模が数百万~数千万単位だったのに対し,BRICsは億~10数億単位であり,潜在的大市場として注目されていると指摘している。なぜならば,経済発展の足かせと理解された巨大な人口は,発展の潜在力を示す指標と肯定的に捉えられるようになったからである(注2)。

 BRICsは有望な新たな投資先を示す造語だったが,国際政治に大きな影響を与えた。4か国の首脳が集団的な政治的行動をとる誘因となったためであり,4か国首脳は2006年の国連総会で初会合を持った。2009年にはロシアのエカテリンブルグで初の公式会合を持った。BRICsは有望投資先4か国を示す造語から国際会議体の名称となり,2009年が創設年となっている(注3)。2009年創設の背景には,2008年の米国発の世界金融危機により開発途上国の経済状況が悪化したことがある(注4)。2011年には南アフリカが参加し表記もBRICSとなった。BRICSは毎年首脳会議を開催し,大型インフラプロジェクト建設をコミットし,2014年にはインフラへの融資を行う新開発銀行(NDB)を創設した。新開発銀行は拠出金を5か国が平等に負担し,議決権も平等に持っておりBRICS銀行と言われる。新開発銀行には,その後バングラデシュ,エジプト,UAE,ウルグアイ(申請中)が参加している。

 2023年に南アフリカのヨハネスブルグで開催された第15回首脳会議で,アルゼンチン,エジプト,イラン,エチオピア,サウジアラビア,UAEの6か国が2024年1月の加盟に合意した。アルゼンチンは加盟を取りやめ,招待されたが加盟しなかったサウジアラビアを除く4か国が2024年1月にBRICSに加盟しBRICS参加国は9か国となった。BRICSの世界のGDPに占めるシェアは2011年の20%から2024年には26%に拡大した。これは,EUのGDPの世界シェア14%,米国の同シェア25%を上回り,世界経済におけるBRICSの存在感は増している。新規加盟の4か国以外に20か国がBRICS加盟を申請していると報じられている。

 ロシアは2022年2月のウクライナ侵攻への経済制裁として,①ロシアの中央銀行,大手銀行のドル決済の原則禁止,②国際決済ネットワークSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの銀行の排除という金融制裁を課せられている。そのため,プーチン大統領は2022年6月にBRICS加盟国の通貨バスケットに基づく新たな準備通貨の開発に言及しており,脱ドル依存を進めようとしている(注5)。首脳会議の共同宣言では,一方的な強制措置が世界経済や国際貿易におよぼす影響を懸念すると述べており,SWIFTに代わる独自の決済プラットフォームの創設が主張されたと報じられている。

タイ,マレーシアがBRICS加盟を申請

 BRICSには20か国が加盟を希望していると報じられており,国際政治や経済で影響力を増すことは確実であるが,BRICSは多様であり対立要因も内包されている。中国とインドは2国間対立を抱えている。中国,ロシア,イランは米国と厳しい対立関係にあるが,インドはQuadのメンバーであり,米国主導の経済連携であるIPEFにも参加している。ブラジル,エジプト,UAEなどは米欧と良好な関係を維持している。ロシアは世界のマジョリティはグローバルイーストとグローバルサウスの国々であるとみており,ロシアと中国がグローバルイーストを主導しているとしている。BRICSはグローバルイーストとグローバルサウスが連携するグループと位置付けられる。

 ASEAN加盟国のタイとマレーシアが相次いでBRICS加盟を申請し注目を集めている。 タイは2024年6月13日にBRICS加盟に向けた意向書案を閣議決定し,マレーシアは2024年7月28日にBRICSへの加盟を正式に申請したと発表した。他のASEAN加盟国についてみると,インドネシアは,2023年のBRICS首脳会議にジョコウィ大統領が参加したが,BRICSへの参加は時期尚早として見送った。中国の影響力の拡大への懸念,中国,ロシア寄りと見なされるリスクなどデメリットが輸出市場の開拓などメリットより大きいと判断したためである(川村 2024)(注6)。しかし,プラボウォ新政権となって参加した2024年の首脳会議でスギオノ外相が加盟の意向を表明している。ベトナムはBRICS加盟に関心を持っており首相が首脳会議に出席した。ラオスとカンボジアも関心を示したことがあるが,シンガポールとフィリピンは関心を表明していない(注7)。

 グローバルサウスの国々がBRICSに参加する理由は,米国およびG7主導の国際秩序への不満である。イスラム教徒の多い国は,イスラエルのガザ攻撃への米国の支援への憤りと大きな不満がある。中国が台頭する一方で米国の影響力が徐々に低下しており国際秩序の不確実性が高まっていることへの対応(ヘッジ)があげられる。米国と対立しデカップリングの対象となっている中国と厳しい経済制裁を課されているロシアからの働きかけもある。マレーシアとタイのBRICS参加には,これらの理由に加えて国際社会での発言力の強化や輸出の増加などの国益が指摘できる。たとえば,マレーシアのモハマド外相は国益に資することに加え,BRICSは国際問題について発言するプラットフォームでありマレーシアの国際的な発言力を強めることができると述べている。また,イスラエルのガザ侵攻に対する米国など西側先進国の対応に不満を持っていることも一因である。タイについては,国益とともにBRICS参加によりタイが南南協力で積極的な役割を果たすことをあげられる。

 両国ともBRICS加盟により中国,ロシア寄りとみなされないようにするためのヘッジを行っている。それは,先進国クラブといわれるOECD加盟である。タイは6月18日にOECD理事会によりOECD加盟に向けての協議に正式に招待されており,マレーシアも7月にアンワル首相がOECD加盟の意向を明らかにしている。BRICSに参加しなかったインドネシアも2023年7月にOECD加盟の申請を行うことを明らかにしている。また,インドネシア,マレーシア,タイを含むASEANの7か国は,米国主導の経済連携であるIPEF(インド太平洋経済枠組み)に参加し,サプライチェーン協定などに参加している。こうした均衡外交はマレーシア,タイに限らない。BRICSの原加盟国であるインドは上海協力機構に参加しながら同時にQuadとIPEFにも参加している。マレーシアとタイは,米中対立の中で国益を最優先にしたたかな均衡外交を進めているといえよう。

[注]
  • (1)マレーシアのベルナマ通信の10月24日付けの報道による。
  • (2)平川均(2016)「アジア経済の変遷と新たな課題」,平川均他編『新・アジア経済論』文眞堂,10−11頁。
  • (3)Mihika Chatterjii and Ikuo Naka (2022),Twenty years of BRICS: political and economic transformations through the lens of land,Oxford Development Studies ,Volume 50, 2022。
  • (4)ダルウィッシュ ホサム(2023)「BRICS に中東・アフリカ諸国が加わることの意味――エジプトを事例に考える」,『世界を見る眼 特集 グローバルサウスと世界』,第5回,アジア経済研究所,1頁。
  • (5)同上,3頁。
  • (6)川村晃一(2024)「BRICSには加盟せず,OECDへの加盟を目指すインドネシア外交のしたたかさ-「自主・積極外交のレガシー」」『世界を見る眼 特集 グローバルサウスと世界』第8回,アジア経済研究所,2−3頁。
  • (7)Asyraf Kamil,Why more Southeast Asian countries have signalled interest to join BRICS,CAN,2024年6月21日付け。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3602.html)

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