世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3561
世界経済評論IMPACT No.3561

『日本列島半導体・デジタルクラスター』の構築を:人材育成と起業資金調達

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.09.16

 30年に亘った経済停滞から脱却する日本復興の方向が見えた。政策の課題は,『列島半導体・デジタルクラスターの構築』のための人材育成と企業資金調達である。

 日本では,全国各地域にクラスター形成のコンソーシアムが誕生している。すなわち,九州シリコンアイランド,せとうち半導体コンソーシアム,中部地域半導体人材育成等連絡協議会,東北半導体・エレクトロニクスデザイン研究会,北海道バレーである。また,アメリカにも日本のシリコンバレー・コンソーシアムが形成された。

 産業クラスターの形成は,第1段階が産業集積であり,第2段階がイノベーション活性化である。熊本県の半導体クラスター形成条件を例に,建設業のセグメントの「建設順序(シークエンス)」で見てみよう。建設業のセグメントは「機能」で分かれており,(1)マスタースイッチ,(2)アクセル,(3)ブレーキがある。そこで,熊本DXクラスターからその課題を抽出してみよう(注1)。

(1)マスタースイッチとなる「輸送費の削減」

 産業クラスター形成のマスタースイッチとなるのは,「輸送費の削減」である。

 熊本空港は,1971年に開港し,2024年時点で総面積1.8平方キロメートルであり,滑走路が3,000mx45mであった。2018年に空港利用者が346万人と最高を記録した(注2)。

 有識者の空港の更なる機能強化の提言は,①「アクセス鉄道」の早期整備,②「定期航空便の再開・新規就航,空港運用時間の延長,国際航空貨物」の実現に向けた体制の構築などに加え,③「交通ネットワーク」の構築がある。2051年度の目標路線数と旅客数は,それぞれ国際線が現状の3路線から17路線へ,旅客数が国内・国際客の合計で622万人となることである。

(2)アクセルとなる「工業団地の建設」

 産業クラスター形成のアクセルとなるセグメントは,入居企業の固定費を削減するセグメントであり,工業団地の建設がある。2023年9月時点で9の市に8つの工業団地が406haの規模で造営された。これにより熊本半導体クラスターは,ほぼ県全土に及ぶ。

(3)ブレーキを踏まないための「人材育成」

 産業クラスター形成のブレーキとなるセグメントには,「エンジニア人材の不足」がある。人材が不足しないように継続した人材育成が必要となる。

 九州では,JASM(TSMCの日本子会社)・九州大学・熊本高専などの76機関が参加する産学官連携の半導体人材育成等コンソーシアムが組織された。第1に,九州・沖縄の9「高等専門学校」でエンジニア・プログラマー等を育成する(注3)。第2に,「熊本大学」に半導体・デジタル研究教育機構を設置する(注4)。第3に,「熊本県立技術短期大学校」に定員20名の半導体技術科を新設した。学生は,熊本大学への編入学が可能となる(注5)。第4に,TSMCと「九州大学大学院」が半導体分野の研究および人材育成における協力に関わる覚書を締結した。日本で毎年100人必要となるトップ人材のうち九州大学が3分の1程度を育成・輩出する(注6)。第5に,コンソーシアム各機関は,「小中学生」向けの半導体工作教室などの各自の取り組みを実施する(注7)。

 以上のように小学生から大学,大学院までの人材育成が実施される。経済産業省のまとめでは,2024年2月時点で,熊本への進出または設備拡張を公表した企業は56社である(注8)。

(4)『日本列島半導体・デジタルクラスター』構築の政策課題は

 日本が目指すべきは,『日本列島半導体・デジタルクラスター』の形成である。日本の現在置かれた状況から政策課題はクラスター形成のセグメントの「建設順序」から明らかである。電子情報技術産業協会(JEITA)の推計として,人材の不足は今後10年間で4万人超(日経新聞,2024年9月10日)としており人材不足が甚だしい。

 そこで,イノベーションのための「人材育成」とインキュベーターのための「起業資金調達」が必要となる。これらこそが,日本の1960年代の高度経済成長政策以来の日本復興のための政治に求められる歴史的な課題である。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3561.html)

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