世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インフレの時代は来ない
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.08.05
高止まる日本のインフレ率
本コラム7月29日付けの「スタグフレーションに陥っている日本経済」でも述べましたが,日本の消費者物価指数の前年同月比上昇率は,6月まで日銀が目標とする2%を27か月連続で上回っており,インフレ率の高止まりが続いています。
一方,米欧では2022年に一時9,10%程度まで急騰した消費者物価インフレ率は大きく低下し,6月には米国で+3.0%,ユーロ圏では+2.5%と,コロナ禍前とそれほど大きく変わらない水準になっています。また,中国の消費者物価インフレ率は昨年後半から今年初めには一時マイナスまで下落し,6月も+0.2%と低い上昇率に留まっています。世界的に見ると,インフレ率は低下方向にあると言えます。
需要超過は一時的
日本のGDPギャップを見ると,コロナ禍後にプラス,つまり需要超過になったのは一時的で,日本では足元でマイナスです。一方,米国では議会予算局による潜在性GDPの推計値とGDP統計からGDPギャップを算出すると,直近の4-6月期には+1.0%となりますが,景気が鈍化すれば需要超過は早晩解消されるでしょう。
もともと,コロナ禍後の世界的な物価急騰は持続的な需要超過によるものではなく,半導体,粗原材料,エネルギー,穀物などの供給制約と,大型財政刺激策発動による需要の急回復が合わさったことによるところが大きかったようです。供給制約の影響は次第に薄れており,米国では需要超過が解消されれば,インフレ率は一段と低下するでしょう。既に需要不足である日本では,円安がインフレ率の低下を遅らせていますが,円安が止まれば,消費者物価インフレ率は1%か,それ以下へと低下して行きそうです。
世界的な財政赤字,政府債務の増大
米国経済が需要不足に転じれば,金融緩和が進み,世界的にも金融緩和の気運が高まるでしょう。ただ,それで需要が早期に回復して,インフレ率が再上昇する可能性は小さそうです。IMFの世界経済見通しのデータベースによれば,先進経済でも新興・発展途上経済でも,一般政府の財政赤字と債務残高は,GDP比で見てコロナ禍前より大きくなっています。各国の大型の財政刺激策がコロナ禍からの景気回復を牽引してきましたが,今後は財政再建のために緊縮策を打たざるを得ない国が増え,需要不足が長引きそうです。日本でも世界的にもインフレの時代は来ないでしょう。
インフレ率の低下は,家計にとっては望ましい一方,企業は値上げがしにくくなり,企業利益は鈍化しそうです。政府にとっては名目経済成長率の低下によって税収が鈍り,財政赤字はさらに拡大しやすいでしょう。
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