世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本経済の相対的衰退と円安
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.12.08
日本の相対生産性低下を反映した円安
円の総合的な強弱の度合を示す円実質実効為替レートは,BIS(国際決済銀行)のデータによれば,2020年平均=100とした時,1995年4月の194.0を歴史的最高水準としてそこから長期的に下落しています。直近値である2025年10月には70.4となりました。これは,日本経済の生産性の相対的低下を反映していると考えられます。詳細は省略しますが,経済理論的にはバラッサ・サミュエルソン効果で説明できます。相対生産性の指標として日本の1人当たり実質GDPの先進国平均に対する相対値をIMF世界経済見通しのデータベースから算出すると,1990年代初めまでは上昇傾向にありましたが,1990年代後半から低下傾向にあり,1980年以降,円実質実効為替レートとの相関係数は0.759に上ります。
円安による日本の相対所得水準の低下
円実質実効為替レートの下落は,市場為替レートで換算した日本の物価の外国物価に対する相対的下落に他なりません。相対物価水準の指標として日本の市場為替レート換算GDPデフレーターの先進国平均に対する相対値を取ると,1980年=100とした時,1995年には152.8に上昇しました。しかしそこから下落に転じ,2024年には64.1となりました。
相対所得水準の指標として日本の市場為替レート換算1人当たり名目GDPの先進国平均に対する相対値を取ると,相対所得水準=相対生産性×相対物価水準という関係になります。日本の相対生産性の低下を反映して相対物価水準(=円実質実効為替レート)が下落したことで,相対所得水準の大幅低下を招いています。日本の先進国平均に対する相対所得水準は,1980年の94.0から1995年には164.3まで上昇し,日本は先進国の中でも所得水準が非常に高い国となりました。しかし,2024年には55.1と,先進国平均の半分強の水準にまで低下しました。また,日本のGDPの世界シェアは1980年の10.0%から1994年には17.8%まで上昇しましたが,2024年には3.6%まで低下しました。規模的にも,もはや経済大国とは言えません。
国内投資より海外投資を優先する企業
円安は日本経済に外需の増大によってGDPを押し上げる面もあります。ただ,財・サービス純輸出のGDP比は,1990年代平均の+1.4%から2000年代平均では+1.2%と若干縮小し,2010年代平均では−0.5%と赤字に転じ,2020年以降の平均では−1.2%と赤字幅が拡大しています。円実質実効為替レートの長期的下落が外需の増大につながっていないようです。
一方,海外からの所得の純受取のGDP比は,1990年代平均の+1.0%から2000年代平均は+2.1%,2010年代平均は+3.3%,2020年以降の平均では+5.2%と増大傾向にあります。これは12月1日付の本コラム「静かな資本逃避が続く日本」で述べたように,日本の対外直接投資残高の累増を反映しています。円安によって日本の相対所得水準が低下し,日本経済の相対規模が縮小していることで,日本市場の魅力が低下し,企業は日本国内での投資より海外での投資を優先させているようです。そのことが日本の相対生産性の低下を,助長しているとも考えられます。
円安は日本経済の相対的衰退を反映しているに留まらず,円安と日本経済の相対的衰退には,スパイラルの関係があるようです。
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