世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
鈍化する米国の景気
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.07.15
製造・非製造業ISM指数は共に50割れ
7月1日,3日発表の6月分の米国の製造業・非製造業のISM景気指数は,それぞれ48.5,48.8と,強弱の分岐点となる50を割りました。製造業は3か月連続の50割れです。非製造業は4月に50を割ったあと,5月には50を上回っていました。
両指数が同時に50を割るという姿は,2001年や2008,9年の景気後退にも見られました。足元の米国景気の鈍化がうかがわれます。
景気後退の接近を示唆する失業率の上昇
7月5日発表の6月分雇用統計によれば,家計調査に基づく失業率は4.1%と,5月の4.0%から上昇しました。これで3か月連続の上昇です。失業率は昨年4月の3.4%をボトムに上昇基調にあります。労働参加率(=労働力人口/16歳以上人口)は62.6%と。4月からわずかに上昇しましたが,現景気回復局面でのピークだった昨年8月の62.8%から若干下がっています。失業率が緩やかに上昇し,労働参加率がピークアウトする形は,過去の景気後退の前にも生じており,景気後退の接近を示唆しています。
一方,雇用統計の事業所調査に基づく非農業就業者数は,6月には前月比20.6万人増と,5月の21.8万人増(改定後)と同程度のまずまずの伸びとなりました。ただ,非農業就業者数が過去1年で261.1万人増えたのに対し,家計調査に基づく就業者数は19.6万人しか増えていません。事業所調査に基づく就業者数は副業を持つ人たちを二重計上している可能性があり,家計調査に基づく失業率や就業者数の方が,労働需給の実態を示しているようです。
GDPギャップは依然プラス
アトランタ連銀によるGDPナウキャストは,7月3日時点で4-6月期の実質GDPを前期比年率換算+1.5%と推計しています。これは,1-3月期実績の同+1.4%に続いて,議会予算局が年率2%程度と推計している潜在GDP成長率を下回ります。
景気鈍化の兆候を受けて,金利先物市場は9月17,18日開催のFOMCでの利下げを7,8割程度織込んでいます。ただ,4-6月期の実質GDP成長率がアトランタ連銀のGDPナウキャスト通りだったとしても,4-6月期のGDPギャップは+0.7%と推計され,1-3月期の+0.9%から需要超過の幅が若干縮小する程度です。その点では,景気が鈍化してきたと言ってもインフレ圧力は十分に収まっていないと見られ,早期に利下げすべき環境にはまだ至っていないようです。
9月のFOMCでの利下げは,それまでに発表される4-6月期分のGDP統計や,7,8月分の製造業・非製造業ISM景気指数,雇用統計,消費者物価,小売売上などの主要経済指標が,さらなる景気鈍化やインフレ圧力の低下を示すかどうかにかかっています。Fedが述べているように,金融政策は正にデータ次第です。
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