世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3486
世界経済評論IMPACT No.3486

「分からないこと」には「裏」がある

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2024.07.15

 世界を見渡しても,日本を見ても,いろいろ「分からないこと」がある。自民党の裏金問題もそうだ。ここのところ,岸田総裁は責任をとって辞めるべきだと主張する自民党の議員も多い。裏金問題は主に安倍派の法律違反問題だと思うけど,裏金を作っていた安倍派の議員の中にも岸田総裁は責任をとるべきだと言っているとか。ちょっと待て。彼ら彼女らは自分の責任をどう考えているのだろうか。せめて,「自分たちも議員辞職して責任をとるから,総裁も責任をとってくれ」くらい言うのが世の中の常識だろう。永田町には別の常識があるだろうか。

 マイナンバーカードの普及政策,マイナ保険証なども分からない。マイナンバーは法律によって個人に割り当てられていて,確定申告にも記入する。だが,マイナンバーカードを作るかどうかは任意のはずだ。健康保険証もいまのものは今年12月2日には廃止され,マイナンバーカードに統合されるという(マイナ保険証)。マイナンバーカードを持っていない人のために「資格証明書」のようなものを発行するらしい。初めは,申請しなければ健康保険証に代わる資格証明書をもらえないと言ってみたり,いやいや必要な人には申請なしでも送るとか。

 総理大臣も担当大臣も「便利だから効率的になるのだから,皆さんマイナンバーカードを作りましょう」と宣伝している。そのためにマイナンバーカードを作ったらポイント付けますよとか,いろんな「おまけ」を付けて,1兆円以上の予算が使われていると言う。

 運転免許証もマイナンバーカードに統合しようという議論もあるらしい。いいよ,いろんなものを一つにまとめたい人はそうすればいい。でも,「卵を一つの籠に入れるな」という格言について政府は国民に説明する義務があるだろう。マイナ保険証にしたい人はすればいいし,これまでの健康保険証がいいという人はそうすればいいだけだ。マイナ保険証じゃないと診察は後回しになりますというクリニックもあれば,調剤も後回しにするという薬局もあると報道されている。役所が圧力をかけているのだろうか。

 筆者は,電車やタクシーに乗るときはスイカを使う。駅ビルのクレジットカードとスイカが一体になったカードだ。駅ビルに入っている大きい本屋で買えば,小説だろうが何だろうが5%引きだ。レストランもユニクロでも5%引きだ。タクシーを降りるときもスイカを選んでタッチすればおしまい。便利でお得なら,「おまけ」を付けなくても普及するだろう。

 本音を説明しないという意味では,ロシアのウクライナへの軍事侵攻も,ガザの戦争も同じように見える。傀儡政権が倒されてウクライナがNATO加盟に動く可能性を考えて,まるで帝国主義の時代のように,ロシア系住民保護のためと国境線を越えて軍事侵攻した。

 ヨーロッパの現代史を振り返れば,普仏戦争,第1次世界大戦,第2次世界大戦と3回の大戦争があった。あのような惨禍を繰り返さないためにはどうしたらいいか。ドイツでもフランスでも,心ある思想家,政治家,学者,ジャーナリスト,コニャック商人(ジャン・モネの回想録は日本語にも翻訳されている)たちが知恵を絞って,政治的に平和をもたらすのは難しいからと,ドイツとフランスの経済的利益を共有させて平和を達成しようと考えた。第2次世界大戦後の先人たちの努力を,一瞬の狂気で壊してはならない。

 ロシアによるウクライナ軍事侵攻は,21世紀の常識からは理解出来ない。ウクライナの小児病院まで攻撃している。国連の安保理でロシアはウクライナの防空ミサイルが誤って病院に落ちたと子供のような言い訳をしている。ロシアがミサイル攻撃などしなければ,ウクライナの防空ミサイルが迎撃することはなかったのではないかと質問する安保理メンバーはいなかったのだろうか。プーチンの思想は,帝国主義の時代のものなのだろうか。

 トランプは,自分が大統領になればウクライナの戦争を24時間で止めてみせると豪語している。そりゃそうだろう。いまの戦線を固定して停戦しなければアメリカはウクライナに軍事支援を一切しないと言うのだろう。NATOからの脱退も匂わすだろう。トランプの頭の中に「民主主義」や「自由」や「法の支配」といった価値観はないだろう。そんな外交をして,多くの国の人々が「アメリカは偉い」,「アメリカが好きだ」と思ってくれるのだろうか。それでも,アメリカは偉大な国だと胸を張って言うのだろうか。

 ガザの戦争もよく分からないことがある。ハマスが一方的にミサイル攻撃を仕掛けたのだから,正当な防衛権の行使だという投稿もあった。国連事務総長のグテーレスは,イスラエルが50年以上「西岸」でやってきたことも忘れるべきではないと言っていたし,どこかの大統領は,まるでヒトラーのようだと最大限の批判をしていた。ガザの戦争で,イスラエル軍の報道官はCNNの記者に,「民間人の死者の割合は平均より大分低い」と語っていた。軍人の発想は怖い。イスラエルは戦時内閣を作って戦争を遂行していたが,離脱者も出た。でも,ネタニヤフの権力は維持されている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3486.html)

関連記事

小浜裕久

最新のコラム